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蝶々もらった

そうだ、アゲハの蛹いる?

ふたつ返事で
なんとなくもらってきた。

あの商店街でだけ会える彼女。
そう言えば前にも
蛹がどうやと聞いた気がする。


猫に食べさせちゃってもいいよ。

え。。や、家で孵そうかな。

優しいね。でも、ちゃんと毒もたないと。
食べられちゃうよ。


そう残して、彼女は去っていった。

りんごと引き換えにサナギをもらう
なんてこと、あるんだなあ。

手もとには
白いプラスチック籠に懸命に
糸を吐き出すあお虫。

このひと、蛹じゃないよねまだ。

りんごの香りする袋で、
家まで丁重に(のつもり)連れて帰った。

浮かれ気味に、どうしようかなと
考えるままに眠りに落ちた。



翌朝

籠にはサナギが転がっていた。

朝方に脱ぎ捨てたのか、
頭と脚の殻が隅で、しわしわに縮んでる。

あ、そんな感じなの。

こちらの動揺をよそに、
サナギは今までその形だった
かのように堂々としてる。
ように見える。

胸糸というらしい支えになる糸が
上手く吐けなかったみたい。
サナギポケットを自作してみた。

恐るおそる
お箸でつまみ上げたら
おしりは元気に動くから、びっくり。


調べると
一週間から10日で羽化するそう。

雌かな、雄かな。

ポケットに収まるサナギはまるで
かわいい赤ちゃん。

これから成虫になるのにね笑



2週間後

一向に孵る様子はない。

まだ生きてるのかな?

なんて思いながら
最近、悲しかったことをサナギに
向かって打ち明けていた。


びく、びく!


うわっ。


うるさかったのかも知れない。
でも、励ましてくれたような気もした。



サナギをくれた女性の
名前も、出処もわからない。

わからない方が
しゃべりやすい事の方が案外
多いのかもしれない。

独り言みたいな話。

カラスと仲良くなるには、とか
生物としての親との関係についても

繰り広げられる
持論はひねくれているようで
どこか哲学っぽくて
きっと頭が良いのだと思う。 

無邪気そうに笑った顔は
未だに少女だった。



20日くらいは経ったんだろうか
日が暮れてから家に帰ると
サナギがうっすら透けてきている。

明日だ。

ついに、出てくるんだね。


その日は
早く目が覚めた。

すぐにサナギをみたけど
まだ中に居た。
いつだろうな、いつだろう。

休日だから、久々に昼寝する。

とろんとリラックスして、
喉が渇いてきた。


まどろみながら
部屋の梯子を降りると


なんと、
すでに羽を乾かしてる。

無事に羽化した
雌のアゲハ。
赤と青の色がとっても鮮やか。

しばらくじいっとして
ゆっくり閉じたり開いたり。
出てきたばかりとは
思えないくらい、ゆうがな動き。

お昼間の、おやつの時間。

ぽとり。
羽が乾いたのか
長くなった脚で窓をカリカリ。
外に出してくれと云う。

窓を開ける。

手の甲にしばらく乗って、動かなくなる。

脚先で味を感じられるから
人の肌がいきなり触れて
驚いてるのかも。


少し見つめあった気がする。


それから
何事もなかったように
羽ばたいていった。










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