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アップルの中庭で #3 お月見とピザパーティ(2)

半年前。
病院に入院してたころ、朝が地獄だった。
息をしてる自分に絶望してた。
別に死にたいわけでもないんだけどね。

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朝、目が覚めると、
天井の塗装のムラでできた、小さな陰影が目に入る。
それをじっと見つめる。
指一本動かすのが、ゾウの片足持ち上げるくらいの重労働に思える。
持ち上げさせるために、自分の心と指先の筋肉を宥めるんだけど、全然だめ。
心と体もバラバラだし、体の部位もバラバラなの。
なんか脳からの指令が途中で止まったり、そもそも指令が下さなかったり…ってことなんだと思う。
ガッタガタだなおい。

気持ちはね、
ずっとザワザワしてる。
ザワザワザワザワ、ソワソワイライラ、ザワザワ
耳元でずっと蚊が飛んでるような不快感が常にある。

静かでそれなりに快適な病室なのに、私の五感はどうにかなってしまってるみたい。
頭は微妙に熱いくらいくらいなのに、手足が氷のように冷たい。
夏なのに、ねー

そういや、冬の日は特に布団の中なのに歯の根が噛み合わないくらい、ガチガチに震えるときもあったなー。今思えばあん時にはもうおかしくなってたんだろうな。
自律神経がイッテしまってるのだとおもう。

はー、なんて生きにくい

LINEで友達や家族から連絡が来てるのに、既読をつけるのさえできない。
文章を読むのがきつい。
考えるのがきつい。
気遣いもできない。しなきゃいけないってわかってるから、面倒臭くて開かない。
ほっといて欲しい、今は何もみたくないし感じたくない
脳が思考を拒否してるのがわかる

わたしはひたすら寝た。
「血液検査しますよー」
「朝ごはんですよー」
「お昼ご飯ですよー」
「散歩行きましょうね、車椅子に乗れますかー」
「体をふきますねー」
「夜ご飯ですよー」
看護師が声をかけてくれるタイミングで目を覚まして、まるで人形のように言われるがままに最小限の動きをして、また目を閉じる。

家族は誰かしら毎日見舞いに来てくれる。
色々話しかけられるのがしんどくて、私はいつも寝たふりをしていた。


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