「ドラマ・アンサングシンデレラ 解説 第四話」

 このドラマ毎回のように「患者さんの生活を守る」という視点での語りから入るのが特徴です。病院に勤務していると、どうしても治療100%、医療的な正しさ100%になりがちです。しかし、患者さんはずっと入院はできません。治療100%の暮らしもできません。
 入院設備のある大きな総合病院ではなく、開業医、さらにその中でも往診を真面目に行っている診療所では「患者さんの生活をより良いものにする」という視点が強くなっていきます。
 このメッセージから始まるということは、患者は生活を守って欲しいのだという薬剤師に問いかけているのではないでしょうか。

1.疑義照会

 薬剤師特有の業務である疑義照会。薬剤師法第24条に出てきます。
 疑義照会の中には、今回ハクがしていた用量によるものといった薬学的なもの、保険適応にあっていない使い方をしたもの、患者の手持ちの薬に応じたもの、はては処方箋の文字が読めないといったものまであります。
 最近では、残薬調整によるものは処方箋の書式に医師が指示を出すことで事後の報告で構わないとするものもあります。(数を減らす場合)さらに言えば、薬の規格や「アムロジン」と「ノルバスク」のように先発品同士で成分同じなのに商品名が違うもの相互間の薬の変更も事前の取り決めに付き事後報告で構わないと行ったものまであります。(なんでそんな薬があるんだ、といいますと「製薬会社大人の事情」です。)
 今回のケースでは、体重30kgの小児に抗生物質のアジスロマイシンを成人処方量出すよう指示する医師に疑義照会したものの、「経験上大丈夫だから」といって突っぱねられるケースでした。
 現場では、このように医師に突っぱねられるケースはよくあります。疑義照会そのものが、医師の治療プロセスの外(すでに他の患者の治療を始めている)の時間に問い合わせをする性質なのも構造上の問題です。)
 薬局の場合は、疑義照会をしたこと、突っぱねられたことを薬歴や処方箋の備考欄に書きましょう。疑義照会をした記録になります。
 患者さんには「薬が多めの量で出ていると医師から説明があったか」確認する
「薬剤師としてこの処方箋の内容に気になることがあったので再度医師に確認している」と伝える
それで処方が変わらなかった場合は、過量投与による副作用が起こる恐れがあるのでその兆候を説明する(できれば書類にして)
というプロセスを踏みます。薬剤師としての仕事をきっちり遂行します。
(処方を決めるのは医師だが、薬物治療で起こり得る事象について説明し「患者に理解できる言葉で、新たな診断を要する状況」を提示するのは薬剤師の業務)


「医療の現場では医師の言うことが絶対」という医師が危険なのは
第一に患者のことを置いてきぼりにしているからです。誰が絶対でもないです。

かかりつけ医の役割を持つ人や、居宅療養に係る医師だと、患者の生活や家族のことも見る傾向があります。というか、見ないと治療になりません。病院の治療だけでは終わらず、治療しながら生活をするので、生活のレベルをどこまでにするかも治療の大切な要素です。

薬剤師は医師の奴隷だ、とここまでひどいことを言う医師は少ないのですが、医療職全員が自分の意のままに動くと認識している医師はまま見られます。指揮するのが医師の仕事ですが、自分の意図するように動くには理にかなっていて細かな指示とそれぞれの職のポテンシャルが高いことが必須になります。
 時に、患者砥石の信頼関係が必須だから(患者になめられたくないため)権威を持たせるように、と医師は偉いというイメージを付けさせる医師がいますが、たいてい患者さんにはその意図はバレています。そして、そういうい行為を強要する医師は人としてちょっと、という人か診断能力が?のことがあります。

薬剤師も裁判の場に出るようになっています。

https://judiciary.asahi.com/fukabori/2014021100001.html

先の解説で「できれば書面で過量投与の兆候を示しておく」というのはここで効きます。疑義照会をして、有害事象防止策を立てた、というのを患者の目にわかるようにしておけば、今回のドラマのシーンのように、薬剤師が謝っても患者の心象としては悪くはならないものと考えます。
 むしろ、あの対応をした医師は、患者からの心象はあまり良くないものと思います。診断をするのが医師の仕事というのは揺るがないからです。
(あんな医師いるんですか?と聞かれるかもしれませんが、若い医師にはだいぶ減ってきましたが、います。)

患者の服装、言動、行動に疾患や副作用、効果のサインが出ています。
例えば、服装が気温と湿度にあっていないものだったり、お金を支払う時にいつも一万円札で払ったり。(お金持ちという意味ではなく、適切な紙幣貨幣の選択がままならないので一番大きな通貨単位で支払う)
 歩き方、話す内容、視線、体臭・・・色々なサインが出てきます。

自分で薬の効果を確認したいという理由で出してほしい薬を処方してもらう医師もいないことはありません。しかし、このようなことをしていると、患者から薬のリクエストをされても拒否する説得力がありません。

お薬手帳として既存のノートを使用するのは構いません。特に、長期の慢性疾患の方は治療のことを何でも書けるノートにして日記帳みたいにするのがおすすめです。この場合、既往症、アレルギー歴、副作用歴、連絡先、薬の調剤に関する要望を記載したものを最初の数ページに記載しておきましょう。ただし、経時的な経過であることが証明できるよう、バインダー式ではないことが求められます。


「自分の体は自分が一番知っている」医療者なら(じゃなくても)よく言われるセリフです。しかし、このセリフを言う人の多くは健康管理ができていません。「とやかく言われたくない」の婉曲表現のことが多いです。

以前(といっても20年ぐらい前)は薬局にネット端末はないことが多かったし(今は必須設備)論文をメーカーに頼んで探してもらっていたのですが、今はgoogleScoLarやPubMedなどで論文を薬局から自分で探すことが可能です。病院に寄っては購読している資料の関係で有料の文献も読むことができます。

ポリファーマシーとベンゾジアゼピン系薬剤の不適切使用

BZ(ベンゾジアゼピン)系の薬剤は中枢神経に働き、過剰に興奮していいて具合悪くなっているのを穏やかにする作用があります。効果の発現が割とはっきりしていて、患者さんに「効いた」と感じさせやすい薬です。ただし、依存(常用量で飲んでいる場合は身体的依存がメイン)が起こりやすいのが問題です。
 BZ系の薬は増やすのも減らすのも慎重になります。BZ系以外の鎮静作用を持つ薬に切り替えて「眠れない」という不安を解消しつつ薬を減らす、減らすときも長期計画で、専門医の指示の下行うなど慎重に行います。



何のために薬の勉強をしているのか。
医師の外部記憶装置ではなく、フールプルーフが効きづらい薬物治療におけるフェイルセーフ的な役割だ。なぜ薬学部が別の学問なのか。医学部ではほとんど薬のことを勉強しない。

患者を救うのはどの医療職でもできます。医師にしかできないことはありません。(実際の現場では、医療的な観察のプロ、看護師の役割が大きいです)
薬剤師しかできない患者の救い方もあります。


ドラマで辰川さんの娘さんの樹里さんが買っていた薬のモデルが睡眠改善剤のドリエルです。もとはかゆみ止めとして使っていたのですが、眠気の副作用が強いので、睡眠改善剤で市販化されています。眠気だけでなく、喉の乾きも強いので結構使い方の難しい薬です。


医学部受験について

 薬学部は医学部を受験して落ちた人が入るところのイメージがあります。
現に、薬学部を出て薬剤師免許を取ったあとに医学部にが入り直す医師もいます。この場合は「学士入学」という方法をとることが多いです。

https://www.kals.jp/medical-trn/outline/lst/

学士入学の場合、現在だと医師国家試験合格して働き始めるときで30歳になっています。もう薬剤師なんかなりたくない、すぐに医師になるんだ、という人は学生のまま、再度受験することになります。

https://www.igakubujuken.jp/ranking/student?year=2019

3浪以上も珍しくありません。
2018年における医学部不正入試問題
https://ja.wikipedia.org/wiki/2018%E5%B9%B4%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%8C%BB%E5%AD%A6%E9%83%A8%E4%B8%8D%E6%AD%A3%E5%85%A5%E8%A9%A6%E5%95%8F%E9%A1%8C

のように、何度も浪人すると卒業時の年齢も高くなるので入学しづらいのもあります。

医学部の偏差値は高くなっていて、医師の息子のボンボンでも入れるということはありません。
https://resemom.jp/article/2018/04/11/44003

1985年(医師になっていれば現在54歳ぐらい)の偏差値では47.5だった大学も、62.5と非常に難しくなっています。(1985年の偏差値47.5は大学を受ける人全体の学力を考えると今の47.5よりは学力が高いと思われますが、それでも今よりは簡単でしょう)
 それだけ不況が長引いて、そこそこ安定して稼げるのが医学部だったというのが理由と思われます。
 現在だと、国公立の医学部を受けようと思えば東京大学京都大学に入れるぐらいの学力が必要です。
 上位の偏差値の私立の薬学部からだと頑張れば入れるかもしれませんが、かなり難しいです。私立であっても、入試科目も4科目(社会以外)のところばかりなので。

「患者の生活を見る」にも繋がります。がんの治療の場合、結果として治らず亡くなってしまうことも少なくありません。大切な家族と二度と会えなくなる日が近づいている、という事実を家族とどう向き合っていくか、も医療者の大切な仕事です。がんに係る医療者や居宅療養に係る医療者は「患者の家族は第二の患者」という意識を強く持ち、治療に携わります。実際のところ、患者さんが亡くなった、という話を薬剤師(特に薬局薬剤師)はあまり聞くことがないです。(最後は病院の事が多いので)たまに、ご家族の方がやってきて報告に来ることがあります。これまた、居宅療養に関わっている薬局の場合はよく連絡があります。

薬剤師のメインの業務が疑義照会ということもあって、あら捜しが大きな仕事のような印象を受けます。間違いという事象を確認して最終的に薬物治療が適正に行われるようにするのが仕事です。患者の方を向いています。疑義照会に対して自分が責められているという印象を受けてしまう医師は、どこかしら自分の方を向いた治療になっているのではないかと思います。もちろん、相手に対する敬意は必要ですが、機嫌を良くしてもらおうという配慮は不要です。どの仕事でも言えますが、周囲に自分の機嫌を取らせて当然という考えのスタッフは、その時点でチームから排除されるべき人です。患者(顧客)に向けるべきスタッフの力を自分に向けさせるからです。

フェイルセーフ

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%BB%E3%83%BC%E3%83%95

  誤操作、誤作動があっても安全な方向に働くようなシステム。
装置やシステム、人間が必ず「間違える、壊れる」ことを前提としています。別にそのシステムに欠陥があるから悪い、という懲罰的なものではなく、システムを使う人の安全を守るのが最優先事項という考え方です。

ただし、最近では薬剤師の業務内容が変わってきて、薬物治療がうまくいくように他の医療職や他の施設の職員と連携をとったり、患者の治療がうまくいくように(医師が自分の診断内容に結果かが出るまで観察しておく間の)途中でフォローしたり、微調節が必要な薬に対して使い方を説明したり、観察期間中の薬物治療がなるべくうまくいくように支援する仕事の非常が大きくなっているので、薬剤師が活躍する場面を説明すると他職種の否定になる場面は減っているのではないかと考えています。

特に、「フールプルーフ」な状況になっている薬が少ない(加齢によりどんどん使い方が慎重になっていく)ので、薬物治療がうまく行っているかどうかの観察をする場面が多くなっていくと思われます。

https://seihin-sekkei.com/method/foolproof-case/

ただし、医師の中には「何かあったら即診察を受けて」という人もいて、薬物治療の微調整で済む場面も一から診断やり直し、となってしまうことも少なからずあります。(この方法も、患者の理解度によっては有効です。)

 

今回は、見ていて薬剤師としてはトラウマがどんどん脳裏に浮かんでしんどくなった方も多いと思います。私もそうです。過去に医師にされた仕打ちの数々。(医師って悪い人が多いという印象を持っている人が多いかは、今回のコロナ禍でも浮き彫りにされています。医師に感謝する発言よりも、看護師や介護職に対して感謝する声が多い印象も受けます。コロナ禍で、発熱や風邪の患者の診察を止めて、そうではない人だけ診察して儲けているところもある・・・友聞きます。これは医師の中でも批判されています)
 診療に集中するため、自分の機嫌を他の医療スタッフに取らせる医師もまだおります。システム上どうしても他の人の診察中に疑義照会をしなければならない薬剤師は邪魔だと考える医師もいます。(こういう医師は、薬剤情報に関し辞書となるAIができればまっさきに導入するでしょう。)診察や処置がしやすいように機器を取りやすい場所に準備するのは当たり前の配慮です。しかし、個人の機嫌を取るのはどの職業でも自分の仕事です。配慮とご機嫌取りの境界を簡単に踏み越えてしまうのはどの仕事でもありがちですが、甘えてはいけないと考えます。

それではまた次回。













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