フルートカフェ第11回 「暗譜の秘訣」❶ 譜面と口伝
音楽のことフルートのことを様々な角度から探求するトーク番組フルートカフェようこそ。無意識の世界に広がる壮大な冒険の旅へ一緒にまいりましょう。
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暗譜の秘訣
譜面と口伝
楽譜に記された音楽と、口伝で伝えられる音楽の違いを知って、効率的に音の世界を学ぶ技術を身につけましょう。
音楽はもちろん、伝えたい内容を覚えて、再現する事は音楽以外の様々な場面でも役に立ちます。応用できる事がたくさんありますので、どうぞ最後までお楽しみください。
音楽には大きく分けると2つの種類があって、一つは西洋古典で使われるような
譜面で書かれた音楽、もう一つは世界各地の民俗音楽や古典で見られるような口で伝える口伝の音楽があります。
譜面で書かれた音楽と口伝の音楽、それぞれ細かく見る前に、そもそも「曲」とは何かを見ていきましょう。
直ではなくて曲
曲とは、音楽作品の事。英語で言えば、Song, Piece, Composition など、「作品」的意味合いが強くなりますが、日本語だと「曲」つまり曲がっているものだという所が面白いですね。
友人のフルーティスト、天田透さんが、「直(まっすぐ)ではなくて、曲なんだよなぁ」とおっしゃっていたのが印象に残っています。
真っ直ぐ、行きっぱなしでは、曲にならないという事ですね。
どこかで曲がって一周しないと曲にならない、なんらかのサイクルがあるものが曲という事ですね。
時間芸術・はじまりと終わりと繰り返すサイクル
私達の身近でサイクルのあるものは、朝と夜、月の満ち欠け、四季など。サイクルには必ず時間の区切りがあります。逆に、サイクルのないものは知識や経験の累積。
時間芸術である音楽の中でも、瞬間を切り取り、解像度を高めてフォーカスする即興演奏などは、時間の区切り、サイクルがありませんが、私たちが一般的に「曲」として捉えているものには、必ず、始まりと終わりがあります。
私達が日々、24時間のサイクルを繰り返すように、始まりと終わりがある曲の中にも区切られた単位で構成されています。
時間芸術である音楽は、まずその「時間」の要素、どのくらいの長さの単位、パーツによって曲が構成されているのかを理解する事が、暗譜の最初のステップです。
記譜の歴史
何のために曲を覚えるか、という事を考える時に、何のために譜面を書き記すようになったのか、という事を理解しておきましょう。
世界には、譜面のない音楽、「口伝」と言って、奏者から奏者へ、音で伝えるタイプの音楽がたくさんあります。世界の民俗音楽や、日本の伝統音楽、能や雅楽も、唱歌といって簡単な覚え書きがありますが、唱歌だけでは再現性のないシステムなので、基本的には譜面がない世界に分類できます。
12音階を使用する音楽の、洗練された記譜システムは、西洋音楽固有の特徴です。しかし、西洋音楽は世界全体の音楽の中のほんの一部でしかない、という事も理解しておく必要があります。
口伝の音楽 / 記譜される音楽
口伝の音楽と記譜される音楽の一番の違いは、どのくらいの大きさのコミュニティと関わるか、という事です。
例えば、日本の伝統音楽である能で使われる音楽を奏でる能楽囃子は、通常五人前後。100名を超える事もある西洋のオーケストラに比べると圧倒的に人数が少ないです。
世界の民俗音楽を見ても、大人数による複雑な構成になっているアンサンブルはほぼありません。日本各地にある民俗神楽も笛と太鼓だけというシンプルな編成の所も多いと思います。
このように少ない楽器で演奏される場合、音楽の至る所に柔軟に対応できる箇所が生まれます。少人数だと意思の疎通も取りやすいし、逆に譜面に書き記す事で窮屈な場面が増えます。
逆に、大人数のオーケストラの場合、譜面がないと、全体の意思疎通を図るのに膨大な時間がかかってしまいます。演奏する側の人間も、様々なレベルの人が集まるし、いかに効率よく複雑で洗練された楽曲を演奏するか、歴史の中で少しずつ進化したシステムが、現在私たちが馴染みのある譜面いうシステムになります。
音楽の中身は譜面には書いていない
重要なのは、譜面は交通整理するための手段、全体の方向性を示す指示書という事を理解しておく事。西洋式の譜面は、効率的な指示書として非常に優秀で、素早く全体を認識する事が可能です
いかに音を通して発信するか、音楽を通してどんな物語を紡ぎ、ムードを演出するか、譜面のある・なしに関わらず、音楽に取り組む内容は変わりませんが、西洋式譜面のシステムを理解する事で、土地に口伝で伝わる音楽を覚えたり、構成が伝わるような指示書を作りたい、と思った時に、自分なりに上手くアレンジしてより効率的に音楽に取り組む事ができるようになります。
西洋式記譜法のシステムを口伝の音楽に利用する
口伝のデメリットはとにかく学習に時間がかかる事。本気でコミットしないと演奏する段階まで行けない事。民俗音楽は土壌となるのコミュニティを基本的には出ないので、口伝でも成立しますが、グローバルな現代人として、積極的に他の文化を理解したり、交流したい、と思った時に、現地に行ってかなりの時間をコミットしないと習得できない事となると、新しい潮流は生まれず、後継者がいなくなった時点で元の文化も衰退してしまいます。
閉じられた世界で守るべき側面もありますが、音楽の本質はコミュニティに新しい風を吹き込み、活性化させるという側面もあります。
民俗音楽は歴史の積み重ねでもあります。その蓄積の中で、効率的にまとめる事ができる所も、そのコミュニティの中では盲点になって見えない事もあります。前人未到の世界に到達する事は、並大抵の事ではありませんが、伝統音楽などすでに形がある程度完成されているものに取り組む場合、効率化できる所は効率化して、学習のスピードを上げて、さらに発展できるような努力をする事が、新しくその世界に取り組む音楽家の心構えと思っています。
ジャズの記譜法は、西洋式記譜法と口伝の音楽のいい所どりと言えます。
西洋式記譜法をシステムを理解する事で、色々な分野に応用する事ができます。またグラフィックスコアのように、全く新しい記譜法を自ら生み出す、という事も楽しいプロセスですね。
次回のフルートカフェでは、どうやって効率的にジャズの譜面を暗譜するか、お話します。
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