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フルートカフェ第七回 音楽の身体性

音楽ファンの皆様、こんにちは ♪ フルートの事、音楽の事を様々な角度から探求するシリーズ「フルートカフェ」へようこそ。生命の息吹を伝えるフルートの音色と共に、無意識の世界に広がる壮大な冒険へ一緒に参りましょう!

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音楽の身体性

今日は音楽の身体性についてお話したいと思います。フルートカフェ第ー回、「風と筒状の何か」と、第二回 「フルートの発音の仕組み」でお話したように、フルートの一番大切な要素は「呼吸」。フルートは呼吸を使うので、身体との関係性がわかりやすいですね。この呼吸と楽器の関係性について、

昭和22年(1947年) 、音楽学者の田辺尚雄の著書「笛 その芸術と科学」で興味深い記述があったのでご紹介します。これは笛の特異性について書かれた内容で、弦楽器や打ち物にはまた別の視点がある事は申し添えます。

生命の素は氣息にある。従つて魂と氣息は極めて密接なるものである。この氣息が音となって人間の體内から出て来れば聲となる。それが音楽に於いては歌となる。従つて歌は直接に人の心の表現となるのである。然しそれは餘りに人間的である。そこでこの大切なる氣息が口から出づる時い、それが物體に觸れて音を出す。それが笛である。物體が空気に觸れて音を發するは自然の現象であり、若し自然の空氣の流れに觸れたのであれば、それは人間の魂には関係がない。それは天の響きである。然るい人間の生命の素となる氣息が、天然と打ち合うて響くところに、魂と天の和がある。言い換えれば、我々の魂に最も近いところ天の音は笛である。

田辺尚雄「笛 その芸術と科学」

体内で生み出した呼吸が、筒状の何かに触れて音が鳴る現象を、魂と天の和 (調和)と表した所が非常に興味深いですね。


日本人の身体感覚と宇宙との関係性

日本の笛には、中国から伝来し、独自に進化した雅楽で使用される「龍笛」、朝鮮から伝来した音楽を演奏する時に使用される「高麗笛」、 天皇家の宮中儀式で使用される龍笛よりも少し太くて長い、日本独自の笛「神楽笛』、そして龍笛からさらにユニークに進化した能楽で使用される「能管」があります。

この「能管」の考え方も非常に面白くて、上記のいずれの笛も竹に指穴を開けたシステムですが、能管は一度竹を切って、またつなげる事によって、わざと音程が外れるように作られていて、そこから生み出される音はある意味、整っていない奇怪な音とも言えるのですが、整っていては人間的すぎるので、天に音を伝える笛はわざと、整わないように設計しています。

この設計は、日本人の身体と天のつながりの意識を象徴いるように感じます。———————————————————————

身体を使って演奏する楽器

ピアノやドラムといった、鍵盤楽器・打楽器や、ヴァイオリンやチェロなどの弦楽器も、やはり物理的に身体を動かして演奏するので、身体との関わりは大きく影響します。音楽の内容だけでなく、例えば、動きがダイナミックなピアニストやドラマーや、表情豊かに演奏するバイオリニストは、エンターティンメント性があってたくさんの人を惹きつけるかもしれません。

パフォーマンスとエンターティンメントは密接に結びついていますが、純粋に「音楽」「音」だけにフォーカスした時、身体の動きはどれほど重要なのでしょうか。


何を表現したいか

物理的に演奏する楽器の場合は、動きの影響が直接音に出ます。例えばフルートだったら、その場を動かずに演奏する時と、歩きながら演奏する時とでは、全然音が違います。

ただ、聴き手にその姿が見えなかった場合、音の違いはわかると思いますが、奏者が動いているかどうか、という情報はそんなに重要ではないと思います。表現の一環として音を鳴らす場合は、音楽で何を伝えたいのか、という事が最も大事で、最小限の動きが一番効率的な場合もあるし、動きがかえって音楽の内容を阻害する事もあります。

表現の一環として音を鳴らす場合は、音楽で何を伝えたいのか、という事が最も大事で、最小限の動きが一番効率的な場合もあるし、動きがかえって音楽の内容を阻害する事もあると思います。

人間の身体と共鳴して音が鳴る伝統的な楽器の場合は、音楽の中身優先で、然し、身体を動かさないと音が鳴らない訳ですから、何を表現したいかでバランスを探る事がベストな選択だと思っています。


電子音楽と身体性

電子音楽にも「身体性」というキーワードが良く出てきます。むしろ、指先の動き一つでコントロールできる、もしくはランダム性を含む自動演奏のプログラミングも含めれば、身体を動かさずに演奏できる電子音楽の方が、身体性というトピックがよりフォーカスされているかも知れません。

私自身、電子音楽を演奏する時に、もともとはアコースティックの分野からのスタートだったという事もあって、身体性が感じられるモーションセンサーを自分の表現の核にしています。

身体を動かす事で音が変化する事を感じられる方が、単純に慣れの問題で、演奏しやすいという状況があるのですが、同時に、電子音楽では発音システムに、人間の身体ではなく、スピーカーシステムを使いますから、人間の身体では到底出す事のできない大きな音を出す事が可能になります。————————————————————————
人間の進化と身体の拡張性

人間の進化の過程でも、初めて馬に乗って、自分たちの身体だけでは到底行くことのできない距離を移動するようになってから、人類は大きく進化しましたが、馬が電車になり、車になり、飛行機になり、ロケットになり…. というようにどんどんその距離が大きくなっています。

スピーカーで扱う音も、この進化の過程に位置しているものだと思います。今まで、自分の身体で感じられる範囲内の音だったものが、スピーカーなど音響システムを使用する事で、全く体験した事のないレベルの音量や音楽に出会う事ができます。

私は電子音楽を演奏する時、自分の身体でコントロールできる限界をはるかに超えるレベルの音が怖いと思う事が正直な所、時々あります。まるで、ロケットに乗って宇宙へ行くような気持ち。未知の世界へ行けるのが音楽のすごい所。

身体性を拡張する事が人類の進化の歴史ですから、電子音楽とそれを受け止める身体の関係性は非常に面白いと感じています。そこには、最初にご紹介した田辺先生のお言葉のように、全く新しい次元での「魂と天の調和」があると思っています。

では、また次回のフルートカフェでお会いしましょう。
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