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少女



弾ける光の音の間隔が長くなって来た
耳を澄ませなければよく聴こえないほどに

もうすぐあの少女に会えるのだろうか
この音色が消えたとき、此処で

この音に君を重ねていた

君には、美しいこの音色がよく似合う

いつものように僕は想像の中と
光の音に耳を傾けていた


ふと、僕の片隅に
何かが入って来たのがわかった

それは、女の子だった

もしかして、あの少女か?

でもその子は、僕の探してる少女とは、何処となく違う雰囲気の女の子だった

まだ音色が終わっていないから
勘違いかもしれない


女の子は、宙に舞って鳥の真似をしたり
宇宙飛行士のように宙を泳いだり

ふわふわ浮いてみたり
柔らかなクッションで昼寝したり

笑顔が似合う
とても活発そうな女の子だった

ーー

何度か見かけた後、僕は彼女に訊ねた。

「そこは、そんなに心地良いのかい?」


「うん、心地いいよ♪」
と、彼女は答えた。

思わず、僕も笑顔になった。

彼女は、僕の声にも驚かず、ずいぶん前から、此処を知っているように見えた。

「君は一人で、ここへ来たのか?」

「そうだよ」

「何も無いここで、一人で寂しくないの?
君はどうやってここまで来たんだい?」

彼女は嬉しそうに答えた。

「全然、寂しくないよ。だって、周りが騒々しくて、それが嫌だったから、全部置いて来ちゃった」

「嫌だーって思ったら、わからないけど、そしたら、ここにいたの」

「そうか」

「ここは楽しいか?」

「うん」

愉しそうにしている彼女を、微笑ましく思えた。

でも似てる。

僕の探している、あのとき寂しそうにしていた少女ではないかと僕は思った。

「君はもしかして、あのときの…」

彼女は僕の言いたいことが直ぐにわかるようだった。

「違うよ。おじさんが思う人とわたしは、同じだけど違う」

おじさ…ん…?

「あー、そうなんだね、同じだけど違うってどういうことかな。君は、色々と良く知っているみたいだね」

「だって、わたしだもん」

「おじさんの探してる人は、おじさんの直ぐ近くに居るのに」

彼女の話していることが良くわからず、
僕は動揺していた。

「おじさんさ、わたし…じゃなくて、その人のことずっと勘違いしてたんだよ」

「勘違い?どういうことだい?」

「その人もわたしも、寂しいとか思ったことないんだよ、ほんの少しはあるけど…」

「そうなのか?寂しそうに見えたけど、寂しくないのなら、それはそれで良かったよ」


「それで、僕の側にいるというのは?」

「光の音が聞こえるでしょ?」

「それがその人だよ」

「どういうことなんだ。そうなのか?」

「おじさんが最初に、その人に会う前からずっと、その人一緒にいたんだけど、おじさん、わからなかったの?」

「最初…会う前…」


僕は呆然とした。

でも、そんな感覚はあったのかもしれない。
僕が飛び出したあの時から、ずっと何かに包まれているような、そんな感覚が…。

「おじさん、鈍感なんだよ」

「ん、そうかな…君は、素直にものを言う子だね」

彼女は微笑んでいた。

僕も笑顔になった。

「おじさんとその人が光を浴びて、その人を見たとき、光を見てびっくりしてしゃがみ込んだ瞬間だったんだよ。寂しくて辛くて膝を抱えていたんじゃなくて、ちょっと怖かっただけ。

でも、おじさんが旅してるときも、仲間と一緒に何か作ってるときも、おじさんの側にいて、おじさんと同じように、嬉しかったり楽しかったり、驚いたり、その人はおじさん達のこと、ずっと見守っていたんだよ」

───流れていた。───辿っていた。

彼女の話しの中で、昔の僕の想いが重なった。

この子は僕の想いの全てを知っている。

「その人に会いたいなら、わたしが繋いであげるよ」

「ほら、もういつでも話せるよ」

「そうなのか。君はなんでも知っていて、何でも出来るんだね」



「そうよ。わたしは全知全能なのだ」

「じゃあね、わたし湿っぽい話好きじゃないからさ」

「またね」


「ああ、ありがとう」

彼女は、さっと、姿を消した。

ーー

僕は光の音のする方へ話し掛けた

「彼女は…君なんだね」

「ずっと、僕は、光の中にいた君を探してたんだ。あれから君は僕の側にいた。今ならわかるよ」

「あら、」

「あなたも光の中にいたわ」


「そうだな」


「あなたは、鈍感なのよ」

「そうだな、君達の言う通り鈍感だ」

「あの子は不思議な子ね」

「あの子は、君だろ」

「そう、あの子は私」



ーー

また、しばらくして彼女は僕たちの前に姿を見せた。彼女は僕等の子供のように思えた。

「わたし、もっと上の方に行くの!
 外側っていうのかな…」

「何処へ行くんだい」

「ずっと、もっと遠くの方!」


彼女は僕たちの間をすり抜けていった。

「わたし、悲しんでる人を全員助けるの!」

「そうか、君はそんなことも出来るのか」

「わからない。でも、やってみる!
わたしにも、おじさんみたいな仲間がいるから。
わたし、頭悪いけどね、おじさんみたいに何でも出来ちゃう頭のいい人とか、優しい人がいるから、きっと、みんなを助けられる」

「そうか、すごいな。でも、気をつけてな」

「ありがとう。大丈夫、わたし全知全能だから」

「そうね、気をつけてね」

「ありがとう、お母さん」


「僕もお父さんと呼んでくれるか?」

「考えとく!」


彼女の声が小さくなって、
彼女は外側の方へ飛び立っていった。

不意に現れて、直ぐに居なくなる。
活発な女の子、僕はずっと君のこと、寂しそうな少女だと、勘違いしたままだったんだな。


「君も素直で活発だったのかい?」

「だったんじゃなくて、今もよ」

「そうか」




「またね、お父さん」

小さくなった声が僕等の耳に入り、
僕等の中で、彼女の姿がこだました。










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