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高校生に法学部を紹介することになって困った話

私はあるバイトをやっている。

それは、全国の高校生と自分の進路や大学生の実態などについて話し、今後の学習のモチベーションにしてもらったり、将来について考えるきっかけにしてもらうというものである。簡単に言えば、高校生と“真面目に”おしゃべりするバイトだ。

そのバイトでは当然のことだが毎回相手をする生徒さんが異なるので、最初に自己紹介してからでないと、お互い最後までぎこちないまま進んでしまうことになる。よく言われることだが、第一印象というのは非常に大事だ。


そしてその自己紹介はその学校さんの特色によって変わってくるが、進学校であればだいたい「今どんなことを学んでいるか」という項目が入ってくる。

もしこれを読んでいる皆さんが大学生であれば、自分が今何を学んでいるのか思い出してほしい。そしてそれを紹介するとしたらどのようにするか考えてみてほしい。

当の私は法学部であるが、このリクエストには大変困ってしまう。

というのは、私は現在特に専門的な学習をしているわけでもなく、恥ずかしながら何か課題意識を持って学習しているわけでもないからだ。法学部という学部の特徴的にどうしても、何を学んでいるのかがパッとしないのだ。

考えてもうまくいかないので、ここで他のメンバーの自己紹介を見て参考にしてみよう。

「私はジェンダーを専攻していて、女性の社会進出について研究しています。」
文学部の方であったが、最近のトレンドを勉強しているなぁという印象で、高校生でもわかりやすいトピック。

「僕は新薬の研究をしていて、将来はがんを治す薬を開発したい」
こちらは院生の方であったが、拍手が起きてもおかしくないほど、やることがはっきりしていてやっていることが立派である。

さぁ、お手本を2つ見てきたが、ここにきてもまだ法学部の紹介文はパッと浮かんでこない。

ただわかったことはいくつかある。

1.難しい用語や抽象的な言葉はNG
2.単刀直入に、わかりやすく
3.何よりも面白そうであること

要は相手が高校生であるということに細心の注意を払わねばならないということだ。同じ大学の人間に紹介するのとは訳が違う。

したがって、以下のような自己紹介は絶対にNGだ。

「私は今、憲法・民法・刑法・労働法を学んでいます。」
-いやいや、民法って何?法律は法律なんじゃないの?一体何を学んでいるのかよくわからないよ。

「法学部って六法を全部覚えなければならないイメージがありますが、、、」
-そもそも六法って何??そんなイメージ全くないのだが。

だいたいの高校生のリアクションというのはこんな感じだ。

私が刑法を習った樋口教授はあるインタビューにて、「法律を学ぶことは、ルールの根拠と変更可能性を学ぶことである」とおっしゃっているが、こんなことを高校生に言っても伝わらないし、第一法学部にいる我々でも、「本当にそうなのかなぁ、、」と思ってしまうのだからどうしようもない。

仕方がないので、刑事ドラマやリーガルハイといったドラマを例として挙げ、殺人罪や窃盗罪がどんな時に成立するのかを学んでいますくらいで乗り切ることが大半だ。しかし、法学徒としては「これでは刑法の、それもほんのわずかな部分しか紹介できていないではないか!」と非常に悔しいのである。

このように「法学部ってどんなところ?」を説明する機会があるたびに、無理難題を突きつけられた気分になる。自分だって「〇〇を専攻してて、将来は〜〜」なんてドヤ顔で言ってみたいものだ。


さて同じバイトである時、高校生の前で「学部アピール合戦」という茶番をやることになった。

結局これまでの話と同じである。合戦というからには文理で対決するのだろうが、負けるのが見え見えだ。だって、アピール箇所がまるで見つからない、あるいはあってもそれを短い言葉でわかりやすく説明するのが非常に難しいのだから。

自分の持ち時間はたったの2分。2分で法学部の面白さを何も知らない高校生に伝えなければならない。いつものように無理難題だ。

ただ、この時の自分は少し違った。これまで全てアドリブだったからうまくいかなかったのだと反省し、事前準備でちゃんと発表スライドにまとめようと考えたのだ。軽く3時間はかかった。

結果からお伝えすると、コロナウイルスで合戦は中止になった。だがスライドはバッチリ作ってある。ナチュラルに私の3時間だけが消えた。

そのスライドの法学部の紹介は以下のようにだった。


AIやSNSなどのテクノロジーの進展で社会はより便利・豊かになってきた。しかし、そんな便利さや豊かばかりを追求しすぎると、プライバシー権・基本的人権といった絶対不可侵な権利といつかは衝突することになる。このような場面で法律は登場し、”社会の調整薬”としての役割を果たす。お医者さんが適切な診断・薬の処方によって患者の病気を治すように、法を学ぶ者は社会に起こる様々な問題に対して処方すべき薬のあり方を学び考えねばならない。

法学部の紹介の仕方なんて人によって千差万別だとは思うが、私が普段授業を受けてて感じることなどを言語化するとこんな感じになるのではないかなと思って、ウンウン唸って捻り出した言葉たちだ。


まだ学び始めて歴が浅いということもあるだろうが、どうしても目の前の用語や学説にばかり集中してしまって、そもそも「それを学ぶってどういうこと?」というシンプルな問いにさえ答えることができていなかった。

もし大学生の皆さんが、実家に帰ってでもいいし、自分よりも年齢が下の人に会ったときに、「何を学んでるの?」と聞かれたとしたら、自分なりに答えることはできるだろうか。変に難しい言葉ばかり並べて適当にごまかすといったことをやらないだろうか。

新学期が始まる前にぜひ考えてみて欲しい。