DH制度とは?メリットやデメリットを紹介
DH制度とは、野球における指名打者に関するルールのことです。指名打者は、投手の代わりに打席に立ち、守備にはつきません。
攻撃力の高い選手を、投手の代わりに送り出すことで、打線を強化。投手は休む時間が増え、デッドボールなど攻撃時に起こりえる負傷のリスクを回避できる、などのメリットがあります。
最近ではアメリカで大活躍中の大谷選手が、よく指名打者で出場していますね。去年アメリカのオールスター戦で採用された大谷ルールが、今年からリーグで採用され、さらに話題になりました。
今回はDH制度の成り立ちや、話題の「大谷ルール」、そしてDH制度のメリットやデメリットについて解説していきます。
DH制度とは?
DH制度は、打線強化を目的にアメリカのメジャーリーグで採用されたローカルルールの1つです。アメリカ以外でも、プロ野球リーグを中心に世界に広まっています。
メジャーリーグでは、今年あらたに追加されたルールが、大谷ルールと呼ばれて話題になりました。
もう少し詳しく見ていきましょう。
DH制度とはどういったルール?
DH制度の主なルールは次の通りです。
指名打者を使うかどうかは、試合ごとに選ぶことが出来る
使う場合は、試合開始前に指名打者を宣言する
指名打者の打順は固定
指名打者を使う場合、監督は試合前に指名打者を届け出る必要があります。試合開始後、指名打者の打順は変えることが出来ません。
相手の先発投手に対して、最低1打席以上は出場するのがルールで、1打席を終えるまで交代は出来ません。(相手の先発投手が打席前に降板した場合は除く)
指名打者に代打や代走を出すことは可能です。代打や代走を出された指名打者は、以後、試合に出ることが出来ません。指名打者は、代打や代走に出た選手に引き継がれます。
ただし、代打や代走に入った選手が、守備に入った場合は指名打者は解除されます。解除以降は投手も打席に入ることになります。
また、投手が交代になり、交代になった投手が他の守備につく場合も、指名打者は解除です。
DH制度の歴史
DH制度は1972年にメジャーリーグの1つ、アメリカンリーグ(ア・リーグ)で考案されました。当時、打線が低迷していたア・リーグは観客動員数が低迷。改善策として打ち出された新ルールがDH制度だったのです。翌1973年から実施され、観客動員数はリーグ全体で約200万人増加しました。
日本では、1975年からパ・リーグでDH制度を採用しています。ア・リーグ同様、パ・リーグも人気が低迷していました。一方で、実力のある選手は多く、1974年のオールスター戦では、代打で出場した阪急ブレーブスの高井保弘選手がサヨナラホームランを打ち、観客をおおいに湧かせます。
1974年のオールスター戦後、アメリカ人記者が、高井選手のようなバッターが代打なのはもったいない、DH制度を採用して指名打者にした方がいい、といった主旨の記事を発表します。この記事が後押しとなり、議論が活発化。パ・リーグは翌1975年に制度の採用を決めました。
これに対し、人気が高かったセ・リーグはDH制度の導入には否定的でした。現在でもセ・リーグはDH制度を採用しておらず、投手がバッターとして攻撃に参加します。ただ、オールスター戦やセ・パ交流戦、日本シリーズの場合、パ・リーグ代表チームのホームゲームではDH制を用いるようになりました。
海外のDH制度は?
現在、海外ではDH制度を導入する方が一般的です。世界の野球リーグの中でDH制度を導入していないリーグは日本のセ・リーグや高校野球などごく一部です。韓国や台湾のプロリーグ、中南米の国リーグなど、プロもアマチュアも多くの国がDH制度を導入しています。
国際大会ではオリンピックも同様です。また、WBC(ワールドベースボールクラッシック)や若い世代の国際試合を主催しているWBSC(世界野球ソフトボール連盟)は、ルールにDH制度を採用しており、今後は「大谷ルール」も含めた形で運用されることが決まりました。
また、アメリカでは、メジャーリーグのもう1つのリーグ、ナショナルリーグ(ナ・リーグ)が、2022年から正式に導入。ア・リーグに対し長くナ・リーグは長い間、DH制度の導入を見送ってきました。
しかし、選手の出場機会を増やすなどの理由で2022年シーズンから「ユニバーサルDH制度」(両リーグ共通のDH制度)になります。
話題の「大谷ルール」とは?
「大谷ルール」とは、先発投手かつ指名打者の場合、リリーフ投手と交代した後でも打席に立てる、と言ったルールのことです。2022年から新たに採用されました。現在、メジャーリーグでは、このルールに該当する選手が大谷選手1人のため、「大谷ルール」と呼ばれています。
これまで、先発投手は指名打者として出場出来ませんでした。投打の「二刀流」で出場する場合、大谷選手はDHを解除。「1番、投手」といった形でした。リリーフ投手と交代すると、当然、後続の投手が打席に立ふたなければなりません。しかも、大谷選手への体力的負担も増加します。それでも大谷選手はチームの理解のもと、「二刀流」を続け、2021年シーズンのア・リーグMVPに輝きました。
「大谷ルール」は、先発投手かつ指名打者の場合、指名打者に代打を出した後も投手として投げ続けることが出来ると定めています。今のところ、こちらのケースの出番はなさそうですが、「二刀流」に挑戦する選手が増えていけば、適用されるかもしれませんね。
DH制度のメリット
DH制度は、打線強化のために考え出されたルールです。しかし、実際には他にも様々なメリットがありました。レギュラー枠が1人増え、投手の怪我のリスクを回避する、怪我をした強打者を休ませながら使える、などです。
では、それぞれ詳しく見ていきましょう。
打線強化。いつでもチャンスメイク
投手の代わりに攻撃力の高い選手をいれ、どの打順からはじまってもチャンスを作ることが出来るようになりました。上位・下位打線などは関係なく、全打順強打者です。いつホームランが飛び出しても、おかしくありません。
一般的に投手に打順が回ると相手投手は一息つける、といいます。特にプロでは投手は、投球に練習時間のほとんどを割くため、他の打者のようにはいきません。高校野球などではエースで4番という選手もみかけますが、さらに高度な技術や心理戦が必要なプロの世界では、「二刀流」は例外と考えて良いでしょう。
また、全打順が強打者ですから、投手の方も気が抜けません。どの打席に対しても緊張感のある対決が見られることになります。
先発選手増員。9人から10人へ
指名打者が先発メンバーに入ることで、これまで9人だった先発メンバーが1人増えて10人になりました。これにより出場選手を増やす事が出来るため、選手のモチベーションもアップします。
指名打者であれば、守備に多少の難がある選手も問題なく登用出来ます。選手の発掘や育成の枠としても使えるのです。
また、指名打者であれば、打撃練習に専念出来ます。さらなる技術の向上も期待出来るでしょう。
投手のリスクを軽減
投手は攻撃に参加しないので、攻撃時に怪我をするリスクを減らせます。これは大変大きなメリットです。
攻撃に参加する場合、打席に立つだけでもデッドボールを受ける、自打球が当たるといった怪我のリスクがあります。塁に出れば、野手との交錯や、中継球の直撃による怪我のリスクもあります。
投手の場合、小さな怪我でもその試合の勝敗に関係することがあります。ひどい時にはその後の戦績や選手生命にも関わるのです。このリスクを少しでも回避でき、さらにはゆっくり回復できるのは、指名打者の大きなメリットと言えるでしょう。
選手生命が長くなる
指名打者は守備に入る必要はありません。このため、怪我などで守備に不安が出た選手の、選手生命を延ばす効果があります。また、最近では主力選手に休養を与える形で制度を使うケースも多く、効果を発揮しています。
実際、2009年、アメリカのワールドシリーズでMVPに輝いたニューヨーク・ヤンキースの松井秀喜選手は、最近のスポーツ紙のインタビューにおいて、「DH制度のおかげで選手生命が延びた」とメリットを語っています。
2009年のシーズン中、松井選手は膝の怪我を抱え守備にはつけませんでした。ワールドシリーズを含む157試合に出場し、指名打者または代打出場(ナ・リーグは当時DH制ではなかったため、相手チームの本拠地では代打で出場)しています。
DH制度のデメリット
DH制度にはデメリットもあります。ベンチ采配の見どころがへる、野球は9人でやるもの、球団の負担が増え資金力のある球団が有利になる、などです。
こちらも、もう少し詳しく見ていきましょう。
ベンチワークの見どころが減少
DH制度では、投手が打席に立つことがないので、投手に代打を送ることがありません。以前はこの交代にベンチワークの最大の見どころがありました。このため、ベンチワークの見どころはかなり減少してしまいます。
セ・リーグでは試合終盤、投手の打席で代打を出して継投するか、そのまま続投するかの選択を迫られます。試合の流れを読み、控え選手の調子などをも踏まえ、チームや監督の思惑や戦略に基づき判断します。その後の試合の流れを左右する大きな決断です。
「DH制度」では、こうしたベンチワークが減少するので良い監督が育たない、と言った監督もいました。
野球は走投打、9人でやるもの
野球は9人の選手が打ったり守ったりするもの。この伝統的なスタイルを維持できない、という点もデメリットでしょう。
指名打者は10人目の選手です。単純に人数が増えることに違和感のある人もいるでしょう。また、投手の打席は期待されていないからこそ、ヒットやホームランが出るととても盛り上がります。
二刀流ではないものの、投手が自分のバットで点を取り、その後流れが変わる、といった試合も過去にはありました。他にも打って守ってが基本なので、指名打者に入るとリズムを掴みにくい、という野手もいます。
指名打者は打撃専門、投手は投球専門と分業すると、それぞれ専門の技術が向上する反面、二刀流のように両方を兼ね備えた選手が育ちにくくなることも考えられます。
資金力のある球団が有利
指名打者になるのは、多くが長距離型の破壊力があるヒッターです。こうした選手はベテランが多く、年俸が高いことが特徴です。良い指名打者を得るためには高い年俸を用意する必要があり、結果的に資金力のある球団が有利になるでしょう。
ナ・リーグで長く「DH制度」が採用されなかった理由の1つとして、資金力の話があるともいわれています。球団の経費が増大するので、球団側としては積極的には取り入れたくない、ということです。
まとめ
以上、「DH制度」のメリット・デメリットを説明してきました。
選手にはメリットの多い反面、球団側や観客側にはデメリットも目立つようですね。
今年、ナ・リーグが「DH制度」を導入したことで、日本のセ・リーグでもいよいよ導入か、と言われています。日本のセ・リーグはこれまでナ・リーグに倣ってきました。今後の成り行きを見守りたいですね。