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宮本浩次カバー『Woman “Wの悲劇”より』 ~うつろいに流されていく~

 月曜日に配信になってから宮本浩次カバー『Woman “Wの悲劇”より』を繰り返し、繰り返し聞いている。歌い出しの切なすぎる声、美しい鼻濁音、ビブラートを効かせない厚みのあるロングトーン、サビでの絶妙なブレス使い、アウトロでの余韻の残し方、細部にわたって丁寧で誠実な歌唱は、聞く度に溜め息がもれる…。表現力の裏付けとなる歌唱力、技術の高さにも惚れ惚れした。更に今回のカバーでは、また一段と深い感情に触れるような表現に何とも言えない気持ちになった。

 抗えない『うつろい』に押し流されていく…。その様子が脳裏に映し出されて胸がいっぱいになった。
原曲は、主人公の研ぎ澄まされた純粋な想いが昇りつめたような透明感や、揺らぎが印象的だったけど、宮本浩次のカバーでは主人公の背後にフォーカスし、うつろいに押し流されていく様子が強く印象に残った。かけがえのない人が心変わりする、背を向ける、離れていく…。それは、良し悪しなど無関係にやってくる『うつろい』に過ぎないのかもしれない。そして、私達はその無常さを心の底では知っている。それでも、手を伸ばさずにはいられないのが人の悲しいところ。そんな姿が目に浮かぶ。この歌の主人公も知っている。気持ちとは裏腹に決して戻ることは無く、終わりに向けて刻々と時が流れていることを。それを表わすように、サビでのブレスを入れずに押し出すような歌唱が流れに圧をかけてくる。また、中盤からのドラムのリズムがその流れを急き立てる。こうして、気付けば私も声や音に身体ごとさらわれ大河の濁流に流されていた。

ああ時の河を渡る船に
オールはない
流されていく

『Woman “Wの悲劇”より』

 切なる想いの先に見えた、時の河を思うと胸が痛む。そして、時の流れをこんなにも切実に表現した宮本浩次のカバーは、この曲の新たな一面を見せてくれたような気がする。原曲を耳にした10代の頃とは違って、時の河に流されていく感覚を怖いくらいに実感出来てしまう年代となった今の私には心の奥に触れるような1曲となった。

 そして、いよいよ明日は『ロマンスの夜』
今回も、心眼を発揮せざるを得ない2階後方の席…。しっかりと、この河に流されてきたいと思う。


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