元島さん
真夏の昼に自分で作った
イカ丼を食べる
冷凍のイカフライを親子丼の要領で
卵でとじたやつ
気温が高いのと炭水化物摂取による
体温の上昇でものすごく汗がでる
だから最初から服は着ないで
上半身裸で食べる
こういう日は"元島さん"のことを思い出す
2ヶ月くらいで辞めたビル清掃のアルバイト
彼はいつも砂の中から出てきたみたいな
表情をしていた
『そろそろ休憩入ろう』
私と元島さんは一緒に休憩に入ろうとしたが
社員さんに止められる
どうやら1人ずつ入って欲しい様だ
『オレが教えねぇと駄目だろ、え?新人さん
1人で休憩は不安だろ?え?いいの?え?』
めっちゃ「え?」って言うやん
私は違う意味で不安になった
休憩室はエアコンの効きが悪くて
いつも湿地みたいだった
元島さんはどこで買ったか気になるくらいの
デカいコッペパンを頬張りながら
『ポリッシャーな、さっき3回かけてたけどな、あれ1回でイイからな。え?
ああ、メモは取らなくていい、いいんだ、
決まりでは3回だけどな、2回は無駄だから
え?オレ、何度も実験してっから、え?
メモは取るなよ、日給8000円の仕事に
メモ帳なんか必要ねぇからよ、え?え?』
元島さんって
相槌で『え?なんか言った?』の時の
「え?」を合いの手みたいに入れてくるから
なんかコンテンポラリーな
リズムが生まれるんだよなぁ
『新人さん、ちょっとやる気あるな、え?
モチベーションってやつか?え?
これ、困るよ、揃えてくれないと
オレがやる気ないみたいに見えちゃうからな
え?それがチームワーク?大事だろ、え?』
気がつくと砂から出てきたみたいな
元島さんは汗をかいていた
砂っぽいのに顔なのに表面張力な汗が
オアシスに見える
『これ、飲むか?え?』
それはノン・アルコールビール
元島さんは休憩室にあったミニ冷蔵庫から
取り出した2本のうち1本を私に差し出す
『え?』
ちなみにこの『え?』は元島さんの
『え?』がうつったのではなく
『え?仕事中にノン・アルコールビールって
飲んで良いんでしたっけ?』
の『え?』だ
まぁ、いいだろう
チームワーク
倫理観も揃えていかないとな
え?旨っ!冷たっ!え?炭酸ヤバ、え?
ちょっと遠慮しがちに飲む私を見て
『新人さん、え?もしかして社員希望?』
そう質問する元島さんは
イカみたいな目をしていた
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