2018/09/28 My coping process
9:30
布団を、洗って、干した。遺体となって病院から戻ってきた奏くんが横になっていた布団。iPhoneが鳴る。沙子だ。
「おはよー!今日はやっとスッキリ晴れたね♪」
「おはよー!洗濯&布団干しざんまいだね。あのお布団を、やっと干せたよ。ひとつずつだけど、ちゃんと前に進んでいるよ」
「そっか!うんうん。まだいろいろと踏み切れない部分もあるだろうけど、身の回りの物は変わっていっても、零さんさえ居れば奏さんは見失わないから大丈夫!」
奏くん。
太陽のように明るくて、カッコ良い奏くん。いつだって本当に優しくて、私を一番に考えてくれて。いっぱい褒めて、私に自信をつけてくれた。そして、あなたはとにかく面白い。話もうまい。おかしなことを言ったり変な顔や動きをして、常に笑いが絶えなかった。私の自慢のダンナだよ。今だって、これからだって、ずっと。
そんな奏くんの一番として愛されていたなんて。しかも「零は自分にはもったいない」なんて周囲に言ってくれていたことをこの前知った。…言葉にならない。奏くんの愛に包まれて、しかもあなたをほぼ独占しちゃっていた。なんて幸せなんだろう。私という人生を生きてきて、本当に良かった。
直接言葉にして伝えていなかったこと、心が苦しいよ。義母がいつも言ってくれるように、いつだって私の側に、私の中にいてくれるのであれば、この気持ちが伝わると嬉しいよ。
教えてもらったたくさんのこと。奏くんとともに生きていく私のこの人生に、どうしたら生かしていけるのかを真剣に考えて実行していきたいと思うよ。
奏くん、義父母がね、ものすごく支えてくれているよ。私が立ち止まり過ぎてしまわないよう、前に進めるよう、奏くんがしてくれていたように、私を支えてくれている。愛で包んでくれている。私は幸せだよ。
書き出しながら、やっぱり涙が次々に出てくる。でも、それだってノーマルだから。こうして、こうやって、なんとか生きていく。
10:52
洗濯物も布団も、洗えるだけ洗って干せるだけ干した。
ごはん。焼きおにぎり二個とお味噌汁。ヨーグルト少し。
食後に、奏くんの写真や動画を見る。動画、もっと撮っておいたら良かったな。なんだかなぁ。
スナフィーの散歩に行かなくては。今日やることは結構ある。請求書作って出す、病院の支払い(これは今日でなくても良い)、河井さんに電話、歯医者さん予約、請求書の前には机を片付ける。そんなところかな。
18:11
なにがあろうと、人生はつづいていく。
信じられない。
決定的に変わってしまった日常。到底受け入れ難い喪失。
それでも、街やひとや社会は、続いていく。今ここで、続いている。
生活を立て直さなくては。
19:11
請求書を出したり。支払いしたり。やることがある時は良い。
二階の仕事部屋を出て、リビングへ降りる。ごはん、何にしよう。
奏くん。私が仕事で出ている時間のこの家は、きっと、寂しかったよね。私の帰りを出迎えてくれる満面の笑顔を思い出す。どうしてもっと、その気持ちを想像できなかったのだろう。
でも、悔やんでも仕方がない。
どうしたら、他の誰かの痛みや寂しさ、苦しさをできるだけ想像して、わかった上で動けるようになれるのだろう。行動を変えていければ、奏くんも喜んでくれるかな。
で、ごはんどうしよう。
静かだ。静かすぎて嫌になる。でも、テレビのリモコンには、手が伸びない。
20:31
Netflix でクィア・アイを見終わる。他に観たいものもない。トイレに立つ。
突然に、涙が溢れ出る。
奏くん、奏くん、奏くん
私のせいではないのはわかっている
でも、でも
もっと、健康に踏み込んでいたら
もっと、食に気をつけていたら
もっと、健康管理をして、健康診断をしていれば
もう戻れないだなんて
もう一度、もう一度会いたいって思うけど、そしたら離れるのが余計に辛くなる
心から愛していたこと、どれだけ自慢のダンナだったか、どれだけ感謝しているか、伝えられるなら伝えたい
伝えられるなら、伝えたかったよ
ごめんね、本当にごめんね
誰と話しても、誰といても、どうやったって、これは埋まらない
どうやったって
ただ時が流れて、変わっていく日常に適応しながら、忘れたり、薄れたり、変わったりすることに身を任せて、それを待つしかないのかな。
どの時間帯でも、辛さは突然に襲ってくる。でも、夜は、やっぱり辛い。今日は、結構ポジティブだし大丈夫だ、なんて、思ってたんだけどな。
ひとしきり泣いて、泣き疲れて、泣き止んだ。My coping process / わたしの対処のプロセス。
ひとは突然、この世から去ってしまうものなんだ。「自分」にだって当てはまる。そうだ、自分だって、次の瞬間に生きているかなんて、わからないんだ。
とにかく今を生きることだ。自分のために、大好きな人々のために、最善を尽くし、今を生きることだ。もうこんな後悔、二度としたくない。トラウマのように刻まれたこれ。有難いことだ。活かさなくてはと思う。
でも、今は、なんだか力が出ない。
今日は頑張った。洗濯して、たくさんの布団を干したし、洗ったものだって片付けた。請求書だって作って送ったし、各所連絡も取った。やることはやった。だからこうして、力尽きて、泣きつかれるまで泣いたりしても良いんだ。そう自分を甘やかす。
泣きすぎて目が痛い。シパシパする。
奏くんがしまっていた昔の写真を、見た。見てみちゃった。
十八歳だったり(平成元年ってあった)、留学中だったりの、彼女との写真。ちょっとだけちくっとするけど、どこか、彼女の姿や面影に近いものを感じて、少し嬉しくなった。こういう系統がタイプだったのかな、なんて。勝手に見ちゃって本当にごめんね。奏くんを独り占めしたい気持ちが湧き上がってきた。あ、でも、独り占めしてたわ。いろんな感情の波。
若い奏くんは青春真っ只中で謳歌しまくりだ。物語として聞いていた頃からそう、若い頃の奏くんに、永遠の片思いをしているようだ。
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