21.お泊まり
「ホント、お気遣いなく」
酔っ払って、半分寝そうになっているのを夜中に帰らせるわけにもいかず、わたしはリビングルームでDの眠れそうなスペースを確保しようと、テーブルを移動させていた。ソファーの上では、一向に起きる気配のない夫がガーガーいびきをかいている。
客用の布団を運び、テーブルをどかしてできたスペースに置く。
「すみません、ソファー動かせなくて、こんな感じになっちゃって…」
「とんでもないとんでもない、ありがとうございます」
「お水、たくさん飲んでくださいね」
そう言って、立ち上がろうとした時だった。
ブー…ブー…ブー…
テーブルの上でDのスマホが振動する。
「あ、電話…」
見るとDは既に布団の上でうとうとしている。きっと妻が心配してかけてきたに違いない。起こした方が良いと判断し彼のスマホに手を伸ばす。
「Dさん、電話ですよ」
敢えて見ようとした訳ではないけれど、着信画面で微笑むD一家が目に止まる。
何だろう、左の胸が小さく縮む感覚…
「ん、あ、どうも。あ、もしもし、もしもーし。うんうん、Nちゃんね、うんうん。あ、そうなんだよね、うん。Kさんのところにね、お世話になるから。うん、あ、そうだね、うんうん。おやすみなさい」
妻になんとか話し終え、右手にスマホを握ったまま、寝落ちするD。
そっとわたしは右手を伸ばし、スマホをDの手からテーブルの上に移した。彼の長い指に触れてしまわないように、細心の注意を払いながら…。
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