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26.淫らな白猫


 
 Dからの申し出に応えたのち、物事がスムーズに進んで、わたしは新しい部署で働き始めた。同じフロアで顔を合わせる毎日が過ぎて二週間が経つ。
 当然のことながら、その分、ふたりだけの「カフェの時間」は無くなった。ちょっとした密会気分だったあのカフェでの待ち合わせが、今となっては懐かしい。
 全ては変わっていくのだ。生じたもの全ては、変化し、消えてゆくのだ。
 
 新しい部署でわたしの歓迎会が開かれたのは、移ってきて三週目の金曜日だった。秋の気配を感じる涼しい日。ちょうど、出張帰りのDが、みんなに手土産を配った日。
 
 「僕からの歓迎の品です」
 居酒屋で、Dが鞄から何やら出す。
 「これ、Mさんに似てると思いませんか」
 手渡されたのは、小さな白猫がついたキーホルダーだった。
 
 お酒が入り、いつもに増して上機嫌の部長が言う。
 「Mさんは、Dくんのお気に入りだからな。ははは!」
 「あはは」
 Dがわたしの方を見て、ニカッと歯を見せる。
 これかな、Yの言っていた「いいとこ取り」って。
 わたしだけが感じてるのかもしれないけれど、今、わたしいいとこ取り、してるのかも。
 途端にじわっと感じる湿り気。これだけで反応しちゃうなんて…。
 
 「すみません、ちょっと」
 席を立ち、いそいそとトイレへ向かう。
 はあ、やっぱり…。下着を膝まで下ろして、ぐっしょりと濡れた部分にそっと指を掻き入れる。温かい快感が足まで広がり、高まる興奮とともに少しずつ手を動かす。
 指先からクチュクチュと伝わってくる音は居酒屋の雑音と賑やかな音楽がかき消してくれて、わたしは個室の中で大胆になることを自分に許してしまう。ああ、後ろから激しく突いて欲しい。気づいたら、後ろに手を回しておしりを突き上げ、ひとり、乱れていた。

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