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14. もう、会わないと思っても


 お茶会からしばらく、Dとは会わない日々がつづいた。これまでの経緯から、何となく、もうふたりで会ってはいけないような気がしていたし、お互いに仕事が忙しかったのもあって、あっという間に一ヶ月が経っていた。
 
 ふたりきりで会ったら、未知の一歩が始まってしまうんじゃないか。少なくともわたしの心の中で未知の、キケンな一歩が…。
 考えすぎかな。
 矛盾した気持ちに振り回されているわたし。

 追われていたプレゼン資料の作成も一段落し、少しだけ脳裏にDの姿がちらつく、ある夕方のことだった。
 「お久しぶりです。これから、会いませんか。30分ほど、時間ありますか?」
 
 どうしてだろう。心にろうそくが灯るような感覚になる。Dからメッセージが来ると。
 久しぶりに、会える。
 そわそわする気持ちを分析、した方が良いのか否か。
 
 お互いのプライベートが交差して、何となくぎくしゃくするような、そんな感覚が残ったお茶会だったから、わたしは少しだけ身構えて、カフェに向かった。
 あの、「膝と膝事件」もあるし…。
 いかんいかん、気にしない、気にしない。
 
 雨の当たる窓辺の席に、先に座っているDの姿が見える。
 あ、髪切ったんだ。
 
 わたしはゆっくりとカフェのドアを開け、彼の待つ席へ向かった。
 

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