20. どこまで焦らせるの
マンガの世界だったら、赤らんでいた顔が次の瞬間真っ青に描かれていただろう。
「え? あ、えーと、ですね…」
さっき洗面所で、何をしていたかなんて…。言えない。口が裂けても、言えない。
「どうして、ですか?」
「いやね、トイレどこかなーと探しているときに洗面所の前を通って、ここかなーと開けようとしたんですけど…」
!!
もしかして、見られた!?
「…いや、リビング出て右だったかな、と思い直してまたリビングに戻ったんですね」
ホッ。
酔っ払った人というのは、無駄な動きを真剣にしてくれるものだ。
「でもまたリビングから出て探していたらなぜか洗面所に着いて…」
え、また!?さすがに今度は見たの!?
「そして少しドアを開けようとしたらMさんが…」
言わないで、もうそれ以上は!なぜかきつく、目を閉じるわたし。
「Mさん、熱心に手を洗ってたので、話しかけずに去ったんですよ」
「あ、そ、そうでしたかー。なんだろ、なんか、付いてたんですかね、きっとね」
ホッとしつつもドキドキは止まらない。
「良かった」
「え?」
「いや、何もなかったのなら、良かった」
「はぁ」
「Mさんに、何か辛いことがあったら、僕も辛いので。うん」
「…気にかけてくれて、ありがとうございます」
「いやいや。それにしても飲んだな〜今日は。うん。あの、厚かましいかもしれないんですが…」
「はい?」
「僕、泊まって行ってもいいですか?」
夫が寝ている今、その答えはわたしが出すしかなかった。
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