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当たり前


行きつけのガソリンスタンド。いつものように今日も笑顔で彼は立っていた。20年前の景色がふと心の中に蘇った。


約20年前この地にきた。当時は至る所が赤土、点々と広がる民家やゲストハウス。自転車とバイク。車は数少なかった。


そんな中このガソリンスタンドができた。横にはマートとコーヒーショップ。何もないこの街には画期的だった。


濾すタイプのカンボジアコーヒーに慣れていた私にはコーヒーマシンで作られたコーヒーは超久しぶりだった。


うまかった。


日本でよく飲んでいたけど、なんだかここで飲むコーヒーショップのコーヒーが特別に感じられた。


街はどんどん発展していった。大型のホテルが立ち並び、美術館、娯楽施設、ショッピングモールが立ち始め、観光客も増えていった。


子供が学校に行き始めると同時に、通い道である別のガソリンスタンドを使うようになった。それでも時々はこのガソリンスタンドを使った。


彼の風貌が少しずつ変わっていった。家族ができたのだろう。ふくよかになった。相変わらずの笑顔で「ボ~ん」(お姉さん)と話しかけてくる。たわいの無い話をして立ち去る。


約20年


今日も居た。又たわいの無い話をした。彼の体重がこの20年で40キロから80キロに増えたと。お互い笑いあった。確かに20年前はもっとスマートだった。


なぜだか今日は感慨深かった。20年変わらずそこに居て、たわいの無い話をして笑いあう。お互いにそれぞれの生活があり毎日がある。その中でほんの一瞬しか時間を共有しないけれど、いつもそこに居て迎えてくれることに、心が温かくなった。


そこに居る


それだけで人をこんなに元気に優しい気持ちにさせてくれる。当たり前、でも当たり前じゃないか、多分。


私の周りにあふれている当たり前。感覚もなしにやりすごしている当たり前。ちょっと目を向けただけで幸せな気持ちになれるのなら、もっと目を向けてあげたらいいのかな。





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