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京都あれこれ みっつめ

「先生、ええとこで会うたわ、ちょっと助けてくんなはれ」
「これは女将さん、どうされました?」
「だんさん方もいてはりましたんか、そんなに暇やったらお店の仕事でも手伝うたらよろしやんか」
「こらあかんわ、女将には勝たれへん、早々に退散しまっさ」
「先生、そういうことですので失礼しまっさ、ほんまにおおきにどした」
「また何かあれば、お声掛けください。ではお気を付けて」
「へえ、お邪魔さんどした」

「さて、女将さん、どうされました?」
「それがねえ、うちのお客はんが来月の五山の送り火が全部綺麗に見えるところはないのかと言わはりますのんや。わてはこの年になるまで全部が綺麗に見えたことなんてあらしまへん。そんな場所があるのかどうかも分かりまへんけど、先生何とかしとくんなはれ」
「五山の送り火がすべて綺麗に見えるところを教えてほしいということですね」
「そうどす」
「有料無料にかかわらず、いくつもあるようですよ」
「教えておくれやす」
「女将さんは昔は10ほどの送り火の山があったのはご存知ですか?」
「そんな話は聞いたことありますなあ。詳しくは知りまへんけど」
「市原野や鳴滝などにあったそうなんですが、割と早くになくなってしまったそうです」
「そやったんどすか。京都に長いこと住んでますけど、まだまだ知らんことがいっぱいありますのんやなあ」
「今も、五山とはいいますけれど、妙と法は別々の山ですから六山ですよね」
「六山の送り火とは言い難うおますなあ」
「だからという訳ではないでしょうが妙法を一つとして数え、五山としたのでしょうね」
「先生は何でも知ってはるんやねえ」

「それで今回の問題ですが、難問は嵯峨にある鳥居形だと言われています」
「どういうことどす?」
「他の四山は見えるけれど、鳥居形だけ見えない場所が多いんです」
「なるほど」
「右大文字から始まって妙法、船形、左大文字まで基本的には京都市の北側の山なんですよね。でも鳥居形だけは西側の山になるんです。しかも一つだけポツンと距離も離れているということで、鳥居形だけ見えない場所が多いのですよね」
「そういえば、わても鳥居は見た記憶がほとんどありまへんなあ」

「例えば、千本北大路の近くに船岡山という小高い丘があります。そこへ登れば、鳥居形以外ははっきり見えます。特に左大文字などは相当に近いですから、山の中の人の動きまで見えるくらいです」
「そんなとこまで見えますのか。それは興味ありますなあ」
「ですが、ご存知のようにお盆とはいえ京都はまだまだ暑いです。船岡山は屋外ですし、それにやぶ蚊が意外に多いですから少し注意が必要ですね」

「ほんで先生、全部見えるとこはどこですねん」
「例えば京都タワーの展望階とか、ホテルの屋上などでもいくつもあるようですよ。ですが、ホテルの場合は有料がほとんどで、宿泊客や招待客、予約客やツアーに組み込まれた方のみの場合が多いようですから、聞いてみる必要があるでしょうね」

「先生の一番のお薦めはどこどすねん」
「私の一番のお薦めはイオンモール京都五条の屋上ですね」
「それはどこにありますのや」
「西大路五条を西へ行った北側にあります」
「ああ、前が広い駐車場になってるとこどすな。確か昔はHANAとかいいまへんどしたか?」
「そうです。あそこの屋上駐車場が一般開放され全部見ることができるはずです」
「はずです?」
「去年はコロナの関係で一般開放されなかったんです。今年は解放されるのかどうか、確認していませんから」
「そうどすか」
「一応屋外ですから暑いですよ。それに人が多いですから観るということだけに限れば風情はありませんが、地元の放送局KBS京都が今年も中継するでしょうから、涼しいお部屋でビール片手に見るというのも有りじゃないでしょうか」
「それはちょっとつまらんなあ」

「ではもう一つの関連行事を観に行くのはどうですか?」
「送り火の他にもありますのか」
「いつから始まったのかはちょっと分かりませんが、嵐山の渡月橋で燈籠流しが行われるんです」
「京都市内で燈籠流しは珍しおすなあ」
「流れていく燈籠と鳥居形を一緒に見られるのは貴重な経験になると思いますよ」
「面白そうどすなあ」
「当日の受付ですから、間に合えば燈籠を流すこともできると思いますよ」
「珍しいし、そっちがお勧めかもしれませんなあ」
「女将さんはよくご存知でしょうけれど、五山の送り火は山に火をつけるイベントではなく、お盆にお迎えした精霊を送る神聖な行事なのですから、私としては余りはしゃいでほしくありませんね」

「先生、全部は覚えられまへんさかい、うちへ来てお客はんに説明しておくれやす」
「いいですよ」
「ほな善は急げや」
「今からですか?」
「今からですがな、ほな行きまっせ」

つづく

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