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骨董品『シロクマ文芸部』

本を書く? まだそんなこと言ってんのか? 今は本を打つってんだよ。

あなたまだ本打ってるの? それってもう時代遅れよ。今は本を話すっていうのよ。

本を話す?

ほら街中で独りで頷いたりブツブツ言ってる人見かけたことない? すべてとは言わないけど結構増えてるんじゃないかなぁ。

あれはイヤフォンマイクで電話をしてるんじゃないのか?

もちろんそんな人もいるわよ。でもね「○○にメール」って指示すると勝手にアプリが開いて、話し出すとそれが文章になって入力されて、送信ってすると相手にメールが送られるのよ。電話だってそうよ。「○○に電話」って指示すると勝手にアプリが電話してくれて繋がったらそのまま相手と話せるのよ。ちょっと前のようにスマホを取り出してメールを打ったり、耳に当てて通話をしたりはもう古いのよ。私なんかスマホはポケットかカバンに入れたままよ。

それで全然問題ないのか?

ほとんど大丈夫なんだけど、まだまだ発展途上ではあるわね。

どういう問題があるんだ?

最初に乗り超えなきゃならないのは、句読点や括弧、改行なども言葉にしなくちゃならないってことね。

例えば、
 わたしは てん とてもおこっています まる かいぎょう
 かぎかっこ おかあさん てん おげんきですか くえすちょんまーく かぎかっことじる かいぎょう
って話さないと、
 私は、とても怒っています。
 「お母さん、お元気ですか?」
ならないのよ。
これを句読点なしで話すと
 わたしはとてもおこっていますおかあさんおげんきですかくえすちょんまーく
になるわけね。

ルールを覚えるのが面倒そうだな。他に問題点は?

一番気になるのは誤変換ね。
例えば「市全体の取り組みとして」と話すとするでしょ、すると「自然体の取り組みとして」って入力されちゃうわけよ。

なるほど、その間違いは仕方ないかもしれないな。

他にも「戦闘兵器」が「銭湯へ行き」になってたり、
「急テンポ」が「旧店舗」だったり、
「決壊時」が「結果維持」、
「帰省中」が「寄生虫」、
「占い」が「売らない」、
「犯罪性」が「藩財政」、
「お貸しください」が「お菓子ください」、
「着物用です」が「肝のようです」などいっぱいあるのよ。

それはちょっと困るよな。

極め付けはこれね。「最終号」のはずが「再集合」なのよ。終わりだと言ってんのにもう一度集まれって全く逆じゃないの。

それじゃよっぽどしっかりチェックしなきゃいけないよな。でも文脈の流れで分かりそうなもんじゃないのか?

そうね。そのあたりが発展途上ということね。でも安心して、構成してくれるアプリもあるから。

それに任せれば修正もしてくれるってか?

100%かどうかは分かんないけどね。

で、俺たち作家はただ喋ってりゃいいのか?

そんな時代なのよ。

それで作家と言えるのかねぇ。

売れてるうちは大丈夫よ。
(1151文字)

今週も参加させていただきます。
小牧幸助さま よろしくお願いいたします。

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