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アメリカの個人出版社ファイル 3:TIS books

アメリカのインデペント・パブリッシャー・シリーズの第3弾として紹介したいのは、前回のTBWと同様、アメリカ西海岸カルフォルニアのオークランドに拠点を持つTIS booksです。本出版社は、発足当時ニューヨーク在住の3名の写真家、ジェイ・カリアー(J Carrier)、ティム・カーペンター(Tim Carpenter)、ネルソン・チャン(Nelson Chan)によって運営されていましたが、チャンがカルフォルニアの私立大学(California College of the Arts 通称:CCA)の写真学部の准教授職を得たことにより、実質チャンの主導のもと活動しています。

チャンは香港から移民してきた両親のもと、ニュージャージーで生まれ育ち大学は、写真、デザインなどのアート系の学部で有名なロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(Rhode Island School of Design:RISD)へ、その後、アレック・ソスなど著名写真家の教授陣が揃うUniversity of Hartford, Hartford Art Schoolで修士号を取得しました。学業を納めたのちは、アパチャー・ファンデーションの出版部門で制作を担当し、ステーブン・ショアやディアナ・ローソンなど写真集を作った経緯があります。そのため、自身の出版社、TIS booksを設立の際には、印刷、編集など制作全般におき、当時の写真集作りの経験を発揮することができました。

TIS booksは、これまで、Justine Kurland, John GossageRaymond Meeksなど多くの著名な作家の写真集を出してきましたが、チャン自身が写真家であることから4冊の写真集も出版しています。TIS booksの出版物の中で一番の野心作だと筆者が考えるのは、2022年春に出されたクリフォード・プリンス・キング『オレンジ・グローブ (オレンジの茂み)(Clifford Prince King ”Orange Grove” )です。キングは、アメリカで出版することができる多くの若手作家と違い大学には行かず、写真は全て自己流で学びました。本書のタイトル『オレンジ・グローブ (オレンジの茂み)は、内容がクイアであるキングとその友人たちの親密な関係性を自宅アパートの寝室やキッチンで撮った作品から、筆者は、被写体の肌の色や、性的なニュアンスを込めたタイトルだと思ったのですが、キングがロサンジェルスに住み始めたアパートの初めての通りの名前にちなんで名付けられたと伺います。兎角、近年の若手作家の写真集は、感情よりも作品のコンセプトや撮影の正確さが前面に出る作品が多い中で、キングの作品は、数十年前のアルバムを見るようなビンテージ感漂い色使いと、作家と友人たちの信頼に満ちた関係性を表すかのように、奇を衒うことのないシンプルな構成が特徴的で、オリジナリティに溢れた本作は、ダシュウッドで2022-23年と長い間大変人気のある写真集でした。

また、キングは本写真集の出版を機に作家としてニューヨークの画廊:
Gordon Robichauxで展示会を開催し、3つの海外の作家のステップアップの鍵とも言える、3つのアーティスト・レジデンシー( BOFFO, Fire Island, NY、8th House, Central Vermont、Light Work, Syracuse, NY)に参加し、今後期待の若手作家として成長しています。TIS booksの今後の躍進は、次世代の新人作家とのコラボレーションによりさらに期待されることと思います。

("Orange Grove' by Clifford Prince King published by RIS books)



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