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いっしょに「踊っている」:乳児-母親のロコモティブシンクロニー("Dancing" Together: Infant-Mother Locomotor Synchrony)

Hoch JE, Ossmy O, Cole WG, Hasan S, Adolph KE. "Dancing" Together: Infant-Mother Locomotor Synchrony. Child Dev. 2021 Jan 21. doi: 10.1111/cdev.13513. Epub ahead of print. PMID: 33475164.

【要旨】

動きはじめる前の乳児と養育者は自然と表情および声をつかって一連の偶発的なやりとりを行っており,これは研究者から社会的「ダンス」と呼ばれている.このダンスは両者がフロアを自由に動けるようになっても続くのだろうか?13ヶ月から19ヶ月の乳児-母親のペア(N=30)を対象に,自由遊びにおける各パートナーのステップを追跡することによってロコモティブシンクロニーを評価した.乳児は母親よりもおおく動いている一方で,ペアの移動活動は自然と協調されていた.27のペアに関して,片方のパートナーの時間的・空間的な軌跡がもう片方の軌跡と一意的にむすびついていた.クラスター分析によりシンクロニーには2つのパターン(母親フォロー型,ヨーヨー型)があり,乳児の方が母親よりもダンスをリードする傾向にあることがわかった.対面でのシンクロニーと同様に,ロコモティブシンクロニーは乳児が外の世界と関わるときの足場となっている.

【本文一部抜粋】

振舞いのシンクロニー(同調性)は社会的交流の基礎となるものである.

意図的であろうが意図的でなかろうが,振舞いのシンクロニーには知覚と行為を協調させる能力が必要とされる.パートナーの片方,あるいは双方が視覚的,触覚的,または聴覚的に他方の振舞いや動きに応じたアクセスをもたなければならない.

動きはじめる前の乳児と養育者は自然と表情および声をつかって一連の偶発的なやりとりを行っており,これは研究者から社会的「ダンス」と呼ばれている.

先行研究では,乳児と母親がともに動くときに移動活動は同期(シンクロニー)するのかどうか,どのように同期(シンクロニー)するのか,量的な分析はなされていない.

乳児が動けるようになって,パートナー双方が「ダンスフロア」を自由に動けるようになると乳児-母親のシンクロニーには何が起こるのだろうか?

Method

Participants

12.89ヶ月から19.53ヶ月の歩くことができる乳児30人とその母親に集まってもらった.

図1

オモチャやソファー,(段差,台座,階段つき滑り台,プラットフォームなど)登ることのできる小高い場所がある広い実験室のプレイルーム(6×8m)で20分間,乳児と母親を観察した.

母親は家にいるときのように普通に乳児と遊ぶよう指示を受けている.

Video Coding

4つのカメラがプレイルームにいるペアの位置をとらえている:2つは固定式のサイドカメラ,1つは固定式の俯瞰カメラで異なる視点からペアを記録した.検査者は部屋の周囲でハンドカメラを持ちペアの動きを追っているが,乳児や母親とやりとりを介することはなかった.

Results

図2

全体として,乳児は母親よりも多くの時間で動いており,時間あたりのステップ数,移動距離,移動範囲も母親より多かった(上図).

Real-Time Spatiotemporal Synchrony

図3

概して乳児と母親は互いに近い距離で遊んでいて,母親は乳児の安全にあわせて空間的に近い場所をとっていた(上図A).

乳児が小高い場所,転落の結果が深刻になりやすい場所にいるときはペアはさらに近いところにいた-およそ母親のリーチ範囲内(上図B).

図5

さらに,乳児と母親はプレイルームを動くときは似たような経路をとっていた(上図).

ほとんど全例(27/30)で乳児の移動軌跡は自身の母親の移動軌跡ともっとも近しいものであった.

Who Led the Dance?

おおむね,乳児は母親から離れるように動いてリードする傾向にあり,母親がそれを追いかけて乳児との距離をつめていた.

図6

クラスターの1つを「母親フォロー型 mother-follow」と名づけた(n=16).乳児が母親から離れるように動き(乳児がリードする),母親が乳児に近づくように動いているからである(母親が追いかける).上図B

もう1つのクラスターを「ヨーヨー型 yo-yo」と名づけた(n=14).互いの距離を近づける・離れる動きが同等の割合で起こっているからである.上図C

図7

共同的な動きは乳児の方から開始される傾向にあるが,ペアはどちらも他方が動き出すと比較的早く動き出すことがわかった(上図).

ペア双方が動いているときは乳児の方が母親よりも移動軌跡をリードしているようである.

Discussion

乳児と母親のペアはプレイルームでの動きを通じて時間的にも空間的にも協調して移動という「ダンス」を行っていることがわかった.

移動をともなう遊びで空間的・時間的な協調を維持することは決して簡単な課題ではなく,このような同調性(synchrony)が幼い乳児と母親のあいだで見られたことは驚きである.

このような難しさがあるにも関わらず,乳児と母親はプレイルームでの動きをうまく同期させているのである.

運動における制約のない自由さ,乳児と母親の身体のサイズや活動レベルの違い,ペアを視界に捕らえつづける必要性など問題は複雑である.

主観的ではあるが,本研究のペアはみな幸せそうに遊んでいた.移動軌跡がもっとも近しかったペア(#02)ではさまざまな小高い場所へ母親が乳児を追いかけて見ており,移動軌跡がもっとも異なっていたペア(#08)でも母親は少し離れた場所から(ときどきはソファーに腰かけながら)乳児が楽しげに遊んでいるのを眺めていた.

ひとりで移動できるようになると乳児は社会的ダンスを開始する機会をえて,そして,母親は良きパートナーとしてそれに応答する.

様式の違いはあるものの,対面のシンクロニーと移動のシンクロニーは同じような発達学的機能をもつのではないか:乳児と外部世界との関わりの足場をつくり,サポートしているのではないか.

重要なことは,シンクロニーという振舞いの機能的成果は乳児や母親の意図には頼っていないということである.双方ともこのような機能の明示的知識を持っている必要はなく,シンクロニーという振舞いを意図的に営む必要もない.それにも関わらず,シンクロニーという振舞いには機能的成果があるのである.



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