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子どもは介入のゴールを特定して達成することが出来るのか?2つのゴール設定アプローチを比較したランダム化比較試験(Can children identify and achieve goals for intervention? A randomized controlled trial comparing tow goal-setting approaches)

Kristina Vroland-Nordstand

Developmental Medicine & Child Neurology 2016; 58: 589-596

【要旨】

目的:目標指向的,課題指向的な介入に基づく2つの異なる目標設定のアプローチ(子ども自身が特定した目標と親が特定した目標)の効果について比較した.

方法:この評価者がブラインド化されている並行群間ランダム化試験では障害を持つ34人の子ども(男13, 女21; 平均9歳,標準偏差1歳4ヶ月)が異なる目標設定のアプローチを持つ2つの目標指向的,課題指向的な8週間の介入へランダムに振り分けられた.(1)PEGSSを用いて子ども自身が目標を特定する(n=18),または(2)COPMを用いて親が目標を特定する(n=16)である.参加者は8つの小児リハビリテーションセンターで集められ,ランダム化は2011年10月から2013年5月の間に行われた.主要評価項目はGASであり,副次評価項目はCOPM-Pである.データは介入前後と5ヶ月後のフォローアップで集められた.

結果:ベースライン期での群間の平均的特徴に差はなかった.介入後は両群ともGASの上昇が認められた(子ども目標群: EMD 27.84,95% CI 22.93-32.76; 親目標群: EMD) 21.42,95% CI 16.16-26.67).2つの群間に介入後の平均Tスコアに差は見られなかった(EMD 6.42,95% CI -0.80 to 13.65).これらの結果は5ヶ月後のフォローアップでも持続されていた.

考察:子ども自身が特定する目標は親が特定する目標と同じ範囲まで達成可能であり,持続して安定している.そのため,子どもは介入における彼ら自身のゴールを特定できるものという信頼に足り,それにより介入プログラムにおける参加に影響を与えることが出来る.

【私見】

その目標は誰のためのものか?子どものセラピーでは「その目標達成って子どものためじゃなくて,母親のため(まだ許せる)?セラピストのため(アウト)?」と悩むことが私はあります.子どもには自分の目標を決める権利があり,そしてそれは親が決めた目標と同等に達成可能である,というこの研究はすごく価値があるように思います.GASとCOPMという主観に頼り気味な評価ツールのみで結果を測定しているのは若干気になりますが.

図は介入前後のCOPM-Pの変化です.children 1-3が子どもが目標を設定したもの,parents 1-3が親が目標を設定したものです.goalはそれぞれ3つ設定されていて,3週目でまずGoal 1への介入が始まり(T1),5週目からGoal 2への介入が開始されています(T2).goal 3はダミーのもので,設定はするものの実際に介入はされません.

まず,childrenとparentsともに同等程度のCOPM-Pのスコア上昇が見られます.つまり,「子ども自身が特定する目標は親が特定する目標と同じ範囲まで達成可能」ということです.

次にGoal 1とGoal 2はともに介入が開始された時点からスコアの上昇が始まります.逆にダミーであるGoal 3はいつまでたってもスコアの有意な上昇は見られません.当たり前ですが,ゴールは設定だけしても意味はなく,きちんと介入する必要があるということです.なお,介入は基本的にホームプログラムと定期的なセラピストによるフォローアップ(1回/週)です.

興味深いのは子ども自身と親が設定した目標のタイプに傾向の違いが見られることです(上図).親の設定した目標の種類(Parental-goal groupのType of goals)が主にADL(Daily activity)であるのに対し,子ども自身の設定した目標(Child-goal groupのType of goals)は学校(School)や余暇活動(Leisure)の割合も比較的大きくなっている点です.

この原因について著者は,対象となった子どもが学童期であり,親は学校にいることはあまりない(学校での様子を知らない)からだろうと推測しています.子ども自身が設定した目標には学校における友達との交友に関する課題(例えば休み時間にバスケットボールのゴールを決める,スキップする,自転車に乗る)があがっています.これらの子ども自身が決めたものだからこそ挙がってくる目標,それ自体が子どもを目標設定の主体とする意義であるように思います.

気になるのは参加した子どもたちの特徴ですが,肢体不自由を伴う子どもだけでなく発達障害系の子どもも含まれているようです(上図Disability参照).肢体不自由を伴う子どもについても,GMFCS等の重症度はわかりません.ちなみに,参入基準は「5歳から12歳で,5歳以上の理解力がある子ども」でした.

どこまで子ども自身の目標を尊重するかというのは難しい問題です.私としては可能な限り,例え十分な理解が難しい子どもでも,まずは子ども自身の意思や希望を聞いてみる姿勢は大切だと思っています.

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