図12

機能に焦点を当てる:脳性麻痺を伴う子どもへの子どもに焦点を当てた介入vs文脈に焦点を当てた介入で比較したクラスターRCT(Focus on function: a cluster, randomized controlled trial comparing child- versus context- focused intervention for young children with cerebral palsy)

MARY C LAW

Developmental Medicine & Child Neurology 2011, 53: 621-629

【要旨】

目的:この研究では脳性麻痺を伴う子どもにおける機能的課題と運動機能のパフォーマンス向上に対して,子どもに焦点を当てた介入 vs 文脈に焦点を当てた介入でその効果を評価する.

方法:クラスターRCTデザインに128人の脳性麻痺という診断を受けた子ども(女性49人,男性79人;12ヶ月-5歳11ヶ月;平均3歳6ヶ月,SD 1歳5ヶ月)が参加した.この研究にはGMFCSレベル1から5までの子どもが含まれていた.介入期間中に外科的または治療的な変化を計画していた子どもは除外した.19の子どもリハビリテーションセンターにいるセラピストが治療チームとして(OTまたはPTによって)ランダムに割り振られた.家族の同意を得られた子どもがセラピストが割り当てられているグループに続いた.子どもは子どもに焦点を当てた介入(n=71)または文脈に焦点を当てた介入(n=57)を6ヶ月目まで受けて,その後6ヶ月-9ヶ月の間に通常のセラピーを受けた.主要評価項目はPEDIであった.副次的評価項目はGMFM-66,股関節外転・膝伸展・足関節背屈の可動域,APCP,そしてFESであった.評価測定者はグループ割り当てについて知らされておらず,開始時・6ヶ月目・9ヶ月目に評価を行った.

結果:10人の子どもが介入を完遂できず,子どもに焦点を当てたグループで6人,文脈に焦点を当てたグループで4人であった.研究に含まれる子どものGMFCSはレベル1(n=37),レベル2(ん=23),レベル3(n=21),レベル4(n=21),そしてレベル5(n=26)であった.開始時において両グループのGMFCS,両親の学歴,両親の所得に差はなかった.PEDIに関しては,開始時-9ヶ月目間における介護者による援助尺度での少効果(p<0.03)を除きグループ間に差はなかった.両群の平均スコアの変化はPEDIに関しては6ヶ月の介入で機能的スキル(p<0.001),介護者による援助(p<0.02)で有意に見られた.6ヶ月目-9ヶ月目のフォローアップ期間では統計的に有意な変化は見られなかった.下位グループでの効果は年齢で見られ(p<0.001),3歳よりも幼い子どもでより年長の子どもよりも有意な変化が見られた.開始時のGMFCSレベルはPEDIのスコアの変化量に影響を与えていなかった.GMFM,可動域,APCPまたはFESの評価ではグループ間で有意な差は見られなかった.GMFMに関しては,開始時-6ヶ月目で有意な変化が見られ(p<0.001),6ヶ月目-9ヶ月目間では有意な変化は見られなかった.両グループとも可動域の減少など有害な副作用が有意に見られることはなかった.股関節外転は両グループとも9ヶ月目の時点で有意(p<0.01)に増加していた.APCPに関しては,両グループともに開始時-6ヶ月目間で遊びの強度 play intensity(p<0.04),身体活動の強度と多様性 physical activity intensity and diversity(p<0.001),そして総合得点の強度 total score intensity(p<0.01)で有意な変化を認めた.

【解釈】この研究は子どもに焦点を当てた介入または文脈に焦点を当てた介入がいづれも同等に効果的であり,介入頻度が成功する介入の重要な構成要素ではないかということを示した.治療の量と機能的活動の変化とにおける様々な「量応答」の関係を特定するために更なる評価が必要である.


【私見】

文脈に焦点を当てた介入というのは,つまり子ども自身には一切手を出さず環境・課題にのみアプローチする介入です.かなり思い切った研究で,よく家族の同意が得られたなと思います.文脈グループでは文字通り「一切」子ども自身にはアプローチしていません.逆に,子どもに焦点を当てた介入グループは環境・課題には一切関与していません.

結果は上記の通りです.縦軸がPEDIスコア,横軸が時間軸となっています.6 monthsまでが介入期間,6 months-9 monthsがフォローアップ期間です. 両グループとも介入期間中はPEDIスコアの上昇を認め,フォローアップ期間ではその伸びが止まっているように見えます.

まず,環境・課題にのみ介入してもPEDIスコアがここまで伸びるというのは驚きです.確かに個人の遂行は個人・環境・課題の要素から成り,要素間に優劣はありません.ただ,それでもやは環境・課題にのみ介入してのこの変化はインパクト大きいです.子どもに介入した方が効率いいのか,環境・課題に介入した方が効率いいのか,というある意味小学生的な素朴な疑問を実際に確かめてみた著者たち.

図には含まれていませんが,可動域の変化でも同様に文脈グループと子どもグループで差がなかったのは不思議です.セラピストの設定した課題・環境のなかにROM-ex的な要素が含まれていたのでしょうか?普段セラピストが当たり前のように行っているROM-exの意義について再考が必要かもしれません.

次に,フォローアップ期間では介入期間ほどのスコアの伸びは見られず,むしろスコアが下がっています.ここから著者は「介入頻度が成功する介入の重要な構成要素ではないか」と考察しています.介入期間後のホームプログラムについてどの程度関与していたのか論文からは不明ですが,やはり持続可能な介入にホームプログラムは必須のようです.

最後に,表からもわかるようにやはり低年齢群の方がスコアの変化が出やすいように見えます.早期介入のエビデンスとして理解できます.

普段の臨床では私たちは通常,子どもと環境・課題の双方にアプローチします.そういった通常の介入(ミックス介入)と比較したら結果はどうなるんだろうと思いますが,それについては数年後に別のグループが検証しています.

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