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ハイハイの乳児と歩いている乳児とでは母親の返事が異なってくる(Crawling and walking infants elicit different verbal responses from mothers)

Karasik LB, Tamis-Lemonda CS, Adolph KE. Crawling and walking infants elicit different verbal responses from mothers. Dev Sci. 2014 May;17(3):388-95. doi: 10.1111/desc.12129. Epub 2013 Dec 7. PMID: 24314018; PMCID: PMC3997624.

【要旨】

ハイハイの乳児と歩いている乳児でモノの共有(つまりビッズ bids)にたいする母親の言語応答を調べた.50人の母親と13ヶ月の乳児を自宅にて1時間にわたり観察した.乳児は静止した状態でモノを母親にビッズするか,あるいはモノを持ち運んでから母親にビッズする.母親の応答は肯定 affirmativeか(例えば「ありがとう」),描写か(例えば「赤い箱ね」),あるいは行為を指示(例えば「開けてみて」)のいずれかである.乳児の移動状況とビッズの形態で母親がどう応答するのかを予測することができた.歩いている乳児の母親はハイハイの乳児の母親よりも行為を指示する応答を示していた.注目すべきは,歩く乳児の母親とハイハイ乳児の母親との応答の違いは2群間にあるビッズの形態の違いによって説明できることである.歩く乳児は静止したままモノを共有するのが一般的なハイハイ乳児よりも持ち運んでのビッズを行うことが多かった.ハイハイ乳児が持ち運んでのビッズを行うとき,母親はまさに歩く乳児の母親がするように行為を指示していたのである.この知見は発達におけるカスケードを示しており,ここでは乳児の移動状況が母親とどのようにしてモノを共有するかに影響を与えていて,同様に母親の言語による応答を形づくってもいるのである.

【本文一部抜粋】

乳児がハイハイから歩行へと移行することで母親とのモノの共有にどういった影響をおよぼすのか,そして次に,社会的ビッズ(bids)の形態によって乳児が受ける言語応答にどういった影響があるのかを示す.

Current study

家庭の日常場面において,乳児がしめすモノのビッズに対する母親の言語応答を調べた.

Method

Participants and procedure

満期産でうまれた健康な50人の13ヶ月児(±1週間)が参加している.26人(女児12人,男児14人)はハイハイで動き,24人(女児12人、男児12人)は歩くことができる.

各家庭において都合のつく時間帯で1時間ビデオにて記録した.

乳児のモノを使った行為に対する自身の言語応答が研究対象となっていることを母親は知らされていない.

Infant bids

図1

乳児がモノを母親に向かって見せる・差しだしたときにビッズとしてコードした;それぞれのビッズは「静的 stationary」または「動的 moving」のいずれかに分類した(上図).

Mothers' response type

肯定(Affirmation)はモノや行為に対して付加的な情報は足さずに乳児の行為をみとめるものである(「ありがとう」「上手ね」);参照(Referential)はモノに関する情報を声にだすか(「オレンジのボールね」),モノに関する情報を引きだすものである(「それは何?」).行為指示(Action directives)はモノに関する乳児の行為をうながすものである(「積木を重ねてごらん」「ここに持ってきて」).乳児のビッズに対して母親が何も言語的なメッセージを返さなかったり,ビッズに関係のない話をしたとき(「ママはコーヒーを飲んでるのよ」など)は無反応(No response)とコードした.

Results

Frequency and forms of infants' bids with objects

母親に対するビッズはどの乳児でも少なくとも1回は見られ,およそ4分に1回で計783のビッズがあった.

平均して,1時間あたりのビッズはハイハイ乳児で13.23回(SD=11.13),歩く乳児で18.29回(SD=13.92)となった.

ハイハイ乳児はもっぱら静止時に母親へビッズを示しており(全ビッズ中97%),すべてのハイハイ乳児が静的ビッズをみせ,動的ビッズを示したのはたったの5人だけであった.対照的に,歩く乳児はビッズの2形態のバランスがとれていた:59%が静的ビッズ,41%が動的ビッズであった.

Mothers' verbal response to infants' bids

図2

全体としてみれば母親は乳児のビッズの79.6%に反応しており,ほとんどの母親(94%)が少なくとも1回は乳児のビッズに応答していた.そして86%の母親がときに参照あるいは行為の情報的なメッセージを出していた-つまり,モノの叙述やラベリング,あるいはモノで何をするのか乳児に話しかけていた.

図3

母親の応答はハイハイ乳児と歩く乳児とで異なっていた.

母親の応答は乳児の示すビッズの2種類の形態により異なっていた.

ハイハイ乳児の母親は乳児の静的ビッズよりも動的ビッズに対して行為指示を行う傾向にあった.

Discussion

モノと共有と直立位での移動という一見すると共通点のないようにみえるスキルが機能的につながっており,母親から受け取る言語情報の種類とも密接に関係していることが示された.

ハイハイ乳児の母親と歩く乳児の母親とでは乳児への応答の種類は異なり,両者のビッズの形態の違いが母親の応答の種類を説明していた.

Bids are salient social signals

乳児が母親にビッズするとき,その注意の対象と関連した言語情報が引き出されやすく,言語学習がうながされる状況となり,乳児のジェスチャーと言語産出との関連を説明することになるのかもしれない.

Locomotor status and bid forms

むしろ,乳児のビッズ形態がハイハイ乳児と歩く乳児との間にある応答の違いを説明している.歩く乳児はハイハイ乳児よりも動的ビッズをおこないやすく,いっぽうでハイハイ乳児は静的ポジションから行いやすい.次に,母親は静的ビッズよりも動的ビッズに対して行為指示で応答しやすい.

なぜ母親はこの2つのビッズ形態に対して異なる応答をするのだろうか?動的ビッズがとりわけ顕著なコミュニケーションのサインとなっているからではないだろうか?モノを共有しようと持ってくる乳児は明らかに大人の参加を誘っており,このジェスチャーは無視することができないのであろう.

Developmental cascades

本研究の結果は乳児の移動形態の変化 - 歩行がモノの共有に帰着するプロセスを示し,今度はそれが母親から乳児が受け取る言語応答の種類に密接な関りがあることを示している.

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