セイコーマート

セイコーマートに行くことにした。

本当は北海道の店舗に行きたかったのだが、私が卒論や試験に苦しんでいる間に世間は三月になってしまい、新幹線や飛行機は軒並み値上がりしていた。新生活を控えた身に高額な旅費を払える余裕はない(当日に思い立って行動するので早期割引には縁がないのだ)。仕方なく、埼玉のセイコーマートに行くことにする。さようなら本場のセイコーマート、さようならラッキーピエロ、さようならエスカロップ。函館と根室に同時に行こうとしている時点で北海道に行く資格などないだろう。

通勤ラッシュを過ぎた電車に揺られ、駅から15分ほど歩いたところにセイコーマートはあった。大きい!売り場が広いのはもちろん、駐車場やイートインコーナーまである充実ぶり。お客さんはかごを持って買い物をしている人が多く、小規模のスーパーのような雰囲気だ。コンビニでありながら、お客さんも店員さんも急かされていない、ゆったりとした空間。何て素晴らしいんだ。まだ何も買っていないのに充実感に満たされる私。ここまで来た甲斐があったというものだ。気分はすっかり観光客である。

ホットシェフの親子丼と、見たことのない紅茶を買って席に着く。おいしい。おいしすぎる。セイコーマートは早急に都内への出店を検討してほしい。特に都心の方は「セ○ンイレブンの隣にファ○リーマート、その向かいに別のセブ○イレブンがあり、少し歩くとさらにまた別のセブンイ○ブン」みたいなのが多くて多様性に欠けるのよね…。コンビニに限らないけど店員も客も余裕がなくて殺伐としてるし、あなたが必要よ、セイコーマート!

お腹を満たしたので、改めて店内を回る。以前Twitterで見かけたソフトカツゲンとようかんパンが欲しかったのだが、関東の店舗では取り扱いがないのか見当たらなかった。オフシーズンを狙って北海道に行く決意を密かに固める(北海道にオフシーズンは存在するのだろうか…)。勢いのままにプライベートブランドの大福やどら焼き、ソフトクリームなどを1000円分ほど購入。ソフトクリームはその場で食べたのだが、これもとてもおいしかった。牛乳の甘みが嬉しい。他のお菓子は鞄に詰め込んで家族へのお土産にした。(埼玉土産だとは思わないだろう。)

それにしても、と思う。この町は何もかも大きい。LUMINEやPARCOのようなビルがない代わりに、独立型の店舗があちこちにある。その全てに無料の駐車場があり、ベンチや自動販売機があり、利用者たちはストレスなく過ごしているように見える。電車の時間を気にしたり、休むためにカフェを探したりする必要はないのだ。空も家も道も大きいから、いつもと変わらない歩幅で歩いているはずなのに、全く進んでいる感じがしない。歩いている人はもちろん、自転車に乗っている人も滅多に見かけず、何台もの車が私の横を凄いスピードで通り過ぎていく。その度に、私は何て小さいのだろう、と思う。等身大に作られたものに囲まれて生活していると、自分の小ささやあっけなさを簡単に忘れてしまう。元来、人間はこんな風に生きていたはずなのだ。電車にも車にも乗らず、自分の小ささと世界の大きさを肌で感じながら生きていたはずなのだ。

そんなことを考えていたら駅に着いていたので、そのまま帰ることにした。家を出るのが遅かったのもあって、せっかくお菓子を買ったのに15時を過ぎてしまっている。夕食後のデザートにしてもらおう、と思いながら、私は小さな町へと帰るのだった。