「空気みたいな人」は・・・
本記事は2008年2月9日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。
僕が2003年にエベレストの山頂から下山する途中、標高8600㍍の地点で酸素が無くなった。その時にバランスを崩して2~3歩足に力を入れたが、たったそれだけの動きをするだけで過激な運動をしたように感じてその場に座り込んでしまった。
人間は酸素の供給するエネルギー分しか動けないことを実感する。エベレストの頂上付近では1歩足を前に出すのに20回程呼吸をする。それがこの地点で酸素が許してくれる動きだ。下界では酸素が無くてもある程度動くことが出来るが、しかしそれはその後に酸素を十分補充できると言うことが条件だ。8000㍍以上ではいくら激しく呼吸をしても苦しさは変わらない。まるで400㍍走を全力で走る苦しさが延々と続いているようだ。
しばらくすると、手足から血の気が引き、視界がどんどん狭まってきた。脳内の酸素の供給が間に合わず、目を開けているのに目の前は真っ暗だ。
通常、脳への酸素供給というのは一定に保たれるよう努力する。低酸素によって頚動脈小体が刺激され呼吸や心拍数を早くするのもそのメカニズムの一つだ。しかしその反面、高所では心臓に行く酸素の供給も少なくなる為に心拍数の上限も低くなってしまう。そうなると心臓はポンプの役目を十分に果たさず酸素を体に行き渡らせるために必要な血液を押し出すことが出来なくなるのだ。
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