見出し画像

スキー仲間と炊き出し

2011年7月2日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 宮城県塩釜からフェリーに乗り、松島湾の中にある桂島に仲間のスキーヤーと炊き出しに行った。
 今回の支援炊き出しを呼びかけたのは、2003年初代スキークロスワールドカップ(W杯)王者の滝沢宏臣選手、トリノ・バンクーバー五輪アルペン日本代表選手である佐々木明選手ら。僕らの仲間でもあるモーグル・スキーハーフパイプ日本代表の畑中みゆき選手が普段から復興支援を手伝っている彼女の地元塩釜の桂島に行くことになった。
 さらに基礎スキーのデモンストレーター、バックカントリースキー、アルペン、モーグル、ハーフパイプ、スキークロスの選手など日本を代表する20人ほどのスキーヤーが賛同して集結した。
 実際これほどジャンルの違う日本代表のスキーヤーたちが集まるのは珍しいが、全員スキーのメッカである東北地方に元気を出してもらいたいと言う共通の思いがある。

 桂島はカキの養殖とのりの名産地。島の太平洋側は津波による被害が著しく民家や養殖用のイカダ、のりを干す機械が破壊され、がれきと化した。これほどの被害にどれだけの人的被害があったのか想像に難くなかったが、聞いてみると常日頃から島民の津波への防災意識は高く、大きな揺れを感じるとすぐに全員高台へ逃げ、桂島では奇跡的に誰も命を落とさなかった。

 最初の炊き出しメニューは、佐々木明選手が彼の地元である北海道北斗市のJAや町長に協力をお願いして送ってもらった新鮮な野菜とホタテの「北海道カレー」。島民全員に食べてもらいたいと200人分作った。
 スキーヤーは頻繁に海外遠征し、遠征先では自炊することが多い。炊事経験が豊富なために、ジャンルも世代も違うスキーヤーだが、あうんの呼吸で作業が進み、それぞれに枠を超えた絆も生まれた。

 200人前のカレーとサラダが出来上がり、桂島の方々がぜひ一緒に食べようと誘ってくれた。お昼を食べながら話を聞くと、島の漁業の機能は大打撃を受けたが、オーナーシップ制度で募り全国から集まったお金で現在では復興のめどが立ったという。明るく前向きに語る彼らが、海と生きる気概を失わない姿に、僕らスキーヤーも大いなる元気と勇気をいただいた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?