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ゴンちゃんの探検学校

わずか11歳でキリマンジャロを登頂。フリースタイルスキー、モーグル競技では10年間にわたり全日本タイトル獲得や国際大会で活躍。引退後は冬季オリンピックやフリースタイルワールドカッ…
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#探検学校

ジェット機人間に拍手を

2009年12月19日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  12月9日、東京の六本木ヒルズで第1回「ファウストA.G.アワード」の表彰式が行われた。ファウスト・アドベンチャラーズ・ギルド(ファウストA.G.)という新たに発足した団体が、世界中の冒険家をたたえるという趣旨だ。  この団体は「冒険、挑戦、貢献」をテーマに活動する40代の男性が中心となった「ジェントルメンズクラブ」。いわば男性が集う有志の会だ。アドバイザーにはプロアスリートや冒険家、登山家、ト

最初の感動

2009年12月12日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  以前、このコラムで紹介したヒマラヤの「ホテル・エベレスト・ビュー」まで一緒に旅をした田淵隆三先生の絵画展に行ってきた。  不思議なもので、山でそれらを拝見したときの感動よりも、東京で見るときのほうが明らかに迫力を感じる。絵に込められた、清らかな中にも荒々しいヒマラヤの空気が、都会では一段と際立つということなのか。

ネットのせい?おかげ?

 パソコンやインターネットが存在しない世界は考えられなくなった。このコラムを書く時も、世界中の論文から話題まで幅広い情報、画像や動画などを参考にしている。  情報の発信が劇的にしやすくなったのもネットのおかげだ。最近の登山でも同じようなことを山の中で求められている。中国の聖火隊がエベレスト山頂に上ったシーンは、ネットを通じてほぼリアルタイムで公開された。  僕たちの登山隊もこれまでの遠征すべてでインターネット配信を行っていた。08年の遠征では日記や写真に加え父の不整脈の状態

ピークを合わせる

2009年11月28日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  茶色い落ち葉の塊がうっすらと雪化粧を始め、空気が冷たくなる季節になると、心が締め付けられるような緊張感に襲われる。それは、小さいころからスキーに携わり、そのシーズンの到来を心も体も準備をしているからではないだろうかと考える。  先日、上村愛子らモーグルの日本代表チームが冬本番に向けて合宿のため、フィンランドに向かった。この合宿の後、ワールドカップ、バンクーバー五輪と続いていく。  シーズンに備え

ブッダ生誕の地で

2009年11月21日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  ヒマラヤでも日本でも、登山ではよく、仏教徒や修験者たちに縁のある道をたどる。山と信仰にはどうしてこれほど密接な関係があるのだろう。僕はしばしばそんなことを考える。  今回ヒマラヤに出かけるまで、ブッダ誕生の地はインドにあると思い込んでいた。しかし、調べてみると、ネパールとインドの国境に広がるタライ平原にあるルンビニで生まれたとのこと。そこで先週紹介した「ホテル・エベレスト・ビュー」を訪れた後によってみることにした。

ホテル建設という「冒険」

2009年11月14日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  僕は今週、12人のメンバーと一緒にヒマラヤに来ている。数日滞在した「ホテル・エベレスト・ビュー」は“シェルパの里„であるナムチェバザールの険しい坂を上りきったところにある。標高は富士山よりも高い3880㍍地点。8848㍍のエベレスト山頂を望む絶景を求め、世界中から客が訪れる。

登山家、大切な創造性

2009年11.7日経新聞夕刊に掲載されたものです。  10月末、以前から約束していた妻との富士登山を敢行した。連れて行ってやると何度も言いながら、悪天候やら都合がつかないやらで、先延ばしになっていた。本格的に雪が積もったら、また来年になってしまう。思い切って出かけてみた。  夏場は一大登山スポットの富士山だが、今の季節は違った様相を呈する。強風、アイスバーン、極度の低温といった厳しい顔をのぞかせる冬の富士は、エベレストとも比べられる。  どの程度の冬装備をしていけばいい

最後は「気持ち」

2009年10月30日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  先週の白山に続き今週も雪の降りしきる中、富士山に登ってきた。久し振りに標高差のある山を走り降りてきたら不覚にも筋肉痛になってしまった。   筋肉痛の主な原因は下山時にある。自分の体重を持ち上げる登りの運動は、自重と背中に背負った荷物を持ち上げるのみだが、重力の勢いと慣性にブレーキをかける下りは自重の2~4倍の負荷がかかる。外部からの力にブレーキをかける運動は筋肉や腱の一部を壊し、炎症を起こす。こ

戦い続ける理由は

2009年10月17日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  来年のバンクーバー冬季五輪に「スキークロス」という新たな種目が加わる。4~6人のスキーヤーが同時にスタートを切り、ジャンプやウェーブといった障害物を乗り越えて、旗門をくぐりゴールを目指す。ラウンドの上位選手は次の戦いの場に挑み、下位の選手はそこで終わる。最終ラウンドの勝者が覇者となる。

優れた言葉の力

2009年10月10日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  僕が米国にいた頃、生活習慣病の予備軍たちが「カウチポテト」と呼ばれるようになった。カウチ(ソファ)に座ってテレビを見ながらポテトチップや菓子をバリバリとかじる。気の利いたキャッチフレーズは米国の生活スタイルを的確に言い当てていて、当時の友人たちの姿が今でも目に浮かんでくるようだ。  「カウチポテト」に相当する日本語は「メタボ予備軍」だろか。しかしこの語は、日本人のライフスタイルまでは含んでおらず、キャッチフレーズの

道具への愛 一流の証

2009年10月3日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  先日、マウンテンバイク元全日本代表の竹谷賢二さんと逗子の里山で一緒にマウンテンバイクに乗る機会を得た。国内で数々のタイトルを獲得し、アテネ五輪にも出場した竹谷さんのライディングは人馬一体ならぬ、人・自転車一体。タイヤの凸凹ひとつひとつまでに神経が行き届いているかのようだった。  竹谷さんは自転車のセッティングに数日かけることもあるという。サドルなどのポジショニングをミリ単位で設定し、ペダルの踏み込み

冒険の舞台 南極

2009年9月26日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  「冒険旅行の隊員求む。低賃金、極寒、何ヶ月も続く漆黒の闇、絶え間ない危機、生還すら疑わしい。だが、成功すれば名誉と名声が手に入る」  これは1914年、アイルランド生まれの探検家アーネスト・シャクルトンが南極、ウェンデル海のバーゼル湾からロス海まで横断するための隊員を集めるために出した広告文だ。なんとも冒険心をそそられる文章である。20世紀初頭、南極はまさに英雄を生む冒険の世界であった。

冒険者の資質とは

2009年9月19日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  9月12日の予想天気図を見たとき、嫌な感じがした。大陸から流れてくる二つの低気圧の影響で富士山山頂付近では30㍍の風と寒気が流れ込んでくるという予報だった。  僕はその日、7年前から「遠位型ミオパチー」を患う中岡亜希さんと富士山に登る約束をしていた。遠位型ミオパチーは手や足の指先など、身体の中心から離れた箇所から徐々に筋力が失われていく希少難病。中岡さんも車イスでの生活を強いられている。

炬火への思い

2009年9月12日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  9月5日からの4日間、全国の60歳以上がスポーツを通じて友好を深めるイベント「ねんりんピック」が北海道で開催された。僕は父の雄一郎、1歳4か月になる息子の雄豪と共に親子三代で開会式の炬火(きょか)ランナーを務め、札幌ドームに集まった1万人の参加者の周りを一周。大きな歓声とともに炬火台に火をともした。