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ゴンちゃんの探検学校

わずか11歳でキリマンジャロを登頂。フリースタイルスキー、モーグル競技では10年間にわたり全日本タイトル獲得や国際大会で活躍。引退後は冬季オリンピックやフリースタイルワールドカッ… もっと読む
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2020年12月の記事一覧

ブッダ生誕の地で

2009年11月21日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  ヒマラヤでも日本でも、登山ではよく、仏教徒や修験者たちに縁のある道をたどる。山と信仰にはどうしてこれほど密接な関係があるのだろう。僕はしばしばそんなことを考える。  今回ヒマラヤに出かけるまで、ブッダ誕生の地はインドにあると思い込んでいた。しかし、調べてみると、ネパールとインドの国境に広がるタライ平原にあるルンビニで生まれたとのこと。そこで先週紹介した「ホテル・エベレスト・ビュー」を訪れた後によってみることにした。

ホテル建設という「冒険」

2009年11月14日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  僕は今週、12人のメンバーと一緒にヒマラヤに来ている。数日滞在した「ホテル・エベレスト・ビュー」は“シェルパの里„であるナムチェバザールの険しい坂を上りきったところにある。標高は富士山よりも高い3880㍍地点。8848㍍のエベレスト山頂を望む絶景を求め、世界中から客が訪れる。

登山家、大切な創造性

2009年11.7日経新聞夕刊に掲載されたものです。  10月末、以前から約束していた妻との富士登山を敢行した。連れて行ってやると何度も言いながら、悪天候やら都合がつかないやらで、先延ばしになっていた。本格的に雪が積もったら、また来年になってしまう。思い切って出かけてみた。  夏場は一大登山スポットの富士山だが、今の季節は違った様相を呈する。強風、アイスバーン、極度の低温といった厳しい顔をのぞかせる冬の富士は、エベレストとも比べられる。  どの程度の冬装備をしていけばいい

最後は「気持ち」

2009年10月30日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  先週の白山に続き今週も雪の降りしきる中、富士山に登ってきた。久し振りに標高差のある山を走り降りてきたら不覚にも筋肉痛になってしまった。   筋肉痛の主な原因は下山時にある。自分の体重を持ち上げる登りの運動は、自重と背中に背負った荷物を持ち上げるのみだが、重力の勢いと慣性にブレーキをかける下りは自重の2~4倍の負荷がかかる。外部からの力にブレーキをかける運動は筋肉や腱の一部を壊し、炎症を起こす。こ

戦い続ける理由は

2009年10月17日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  来年のバンクーバー冬季五輪に「スキークロス」という新たな種目が加わる。4~6人のスキーヤーが同時にスタートを切り、ジャンプやウェーブといった障害物を乗り越えて、旗門をくぐりゴールを目指す。ラウンドの上位選手は次の戦いの場に挑み、下位の選手はそこで終わる。最終ラウンドの勝者が覇者となる。

優れた言葉の力

2009年10月10日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  僕が米国にいた頃、生活習慣病の予備軍たちが「カウチポテト」と呼ばれるようになった。カウチ(ソファ)に座ってテレビを見ながらポテトチップや菓子をバリバリとかじる。気の利いたキャッチフレーズは米国の生活スタイルを的確に言い当てていて、当時の友人たちの姿が今でも目に浮かんでくるようだ。  「カウチポテト」に相当する日本語は「メタボ予備軍」だろか。しかしこの語は、日本人のライフスタイルまでは含んでおらず、キャッチフレーズの

道具への愛 一流の証

2009年10月3日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  先日、マウンテンバイク元全日本代表の竹谷賢二さんと逗子の里山で一緒にマウンテンバイクに乗る機会を得た。国内で数々のタイトルを獲得し、アテネ五輪にも出場した竹谷さんのライディングは人馬一体ならぬ、人・自転車一体。タイヤの凸凹ひとつひとつまでに神経が行き届いているかのようだった。  竹谷さんは自転車のセッティングに数日かけることもあるという。サドルなどのポジショニングをミリ単位で設定し、ペダルの踏み込み

冒険の舞台 南極

2009年9月26日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  「冒険旅行の隊員求む。低賃金、極寒、何ヶ月も続く漆黒の闇、絶え間ない危機、生還すら疑わしい。だが、成功すれば名誉と名声が手に入る」  これは1914年、アイルランド生まれの探検家アーネスト・シャクルトンが南極、ウェンデル海のバーゼル湾からロス海まで横断するための隊員を集めるために出した広告文だ。なんとも冒険心をそそられる文章である。20世紀初頭、南極はまさに英雄を生む冒険の世界であった。

冒険者の資質とは

2009年9月19日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  9月12日の予想天気図を見たとき、嫌な感じがした。大陸から流れてくる二つの低気圧の影響で富士山山頂付近では30㍍の風と寒気が流れ込んでくるという予報だった。  僕はその日、7年前から「遠位型ミオパチー」を患う中岡亜希さんと富士山に登る約束をしていた。遠位型ミオパチーは手や足の指先など、身体の中心から離れた箇所から徐々に筋力が失われていく希少難病。中岡さんも車イスでの生活を強いられている。

炬火への思い

2009年9月12日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  9月5日からの4日間、全国の60歳以上がスポーツを通じて友好を深めるイベント「ねんりんピック」が北海道で開催された。僕は父の雄一郎、1歳4か月になる息子の雄豪と共に親子三代で開会式の炬火(きょか)ランナーを務め、札幌ドームに集まった1万人の参加者の周りを一周。大きな歓声とともに炬火台に火をともした。

知恵詰まった伝統農法

2009年9月5日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  八ヶ岳で子供たちを集めて開いた夏休みのアウトドアキャンプ。参加した子供の自由研究を手伝うために僕たちは森に入った。毎年お世話になっているペンションのオーナーがおもむろにハンノキの根元を掘った。すると土の中から奇妙な茶色のブドウのように連なった根が出てきた。彼は「これが根粒菌なんだ」と言って僕たちに見せてくれた。

今そこにある食料危機

2009年8月29日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  先日、2008年度の日本の食糧自給率が前年度の40%から41%に上がったと農林水産省が発表した。これは喜ばしいことであるが、それよりも大きな問題がある。  世界的にみると、過去10年間の消費量は生産量を上回っているということである。この背景には、新興国を中心とした急激な人口増加、それに伴う牛や豚の消費増がもたらす飼料用の穀物の増加、穀物を原料とするバイオ燃料の普及などで需要は高まる一方。半面、温暖化

情報面から競技力底上げ

2009年8月22日日経新聞夕刊に記載されたものを修正加筆したものです。  先週紹介した米国スキー連盟(USSA)の新本部「センター・オブ・エクセレンス」は、ソフト面の充実でも目を見張るものがある。  現代のスポーツではアスリートの競技力の大きな部分を「情報」が占める。米国スキー連盟に、これまで問題として立ちはだかっていたのが、日本の25倍もの大きさを持つその広大さ故のコミュニケーションの偏りであった。

五輪後、求められる意識

2009年8月15日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  先日、米国を訪れたとき、パークシティーにある米国スキー連盟(USSA)の本部がリニューアルされたと聞いて、見学に出かけた。  パークシティーはソルトレイクシティー近郊の街で、ワールドカップや世界選手権も開かれている。2002年の冬季五輪でも、スキー競技の多くはパークシティーが舞台となった。USSAは1981年以来、ここに本拠を置いている。  新しい本部は「センター・オブ・エクセレンス」(卓越したもの