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ゴンちゃんの探検学校

わずか11歳でキリマンジャロを登頂。フリースタイルスキー、モーグル競技では10年間にわたり全日本タイトル獲得や国際大会で活躍。引退後は冬季オリンピックやフリースタイルワールドカッ… もっと読む
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2020年6月の記事一覧

スキーと長寿の関係は

前回の記事に101歳で天寿を全うした祖父、三浦敬三の下半身の筋力と骨密度が60歳台だったと書いた。これはスキーがもたらした恩恵であるが、実は祖父がすぐれていたのはそれだけではないのだ。 彼の血液を調べてみると、特徴としてインスリンの値が低かった。これは血糖値のコントロールがうまくできていて、糖尿病になりにくいということを意味する。 順天堂大学の抗加齢制御研究室(アンチエイジング)の白澤卓二教授の最近の研究によると、血糖値のコントロールと長寿は関係しているそうだ。マウスや猿

スキーとアンチエイジング

2008年3月22日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。 先週の記事で国の情勢が登山に影響することを書いたところ、僕が日本を出発した(2008年3月16日)前日、チベット自治区のラサを中心に騒乱が起きたニュースが流れた。 今僕たちはネパールのカトマンズにいて、チョモランマ遠征の準備をしている。予定では来月上旬にチベット入りすることになっており、それまでに状況が沈静化して無事に国境を越せることを願っている。 しかし悪いニュースばかりではない。フリースタイ

遠征と政治

2008年3月15日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。 2008年月3月16日僕はネパールに出発する。本隊に先立って、現地の準備をするためだ。  今回の遠征は、最初にネパールの首都カトマンズに入り準備、高度順化をエベレスト街道と呼ばれるエベレストBCに続く道で行う。4500㍍付近の高度まで身体を慣れさせてから、再びカトマンズに戻り中国チベットのラサに向かう。  今回の荷物はかなり多く、忘れ物がないか心配だが、それよりもネパールの政治情勢が気になる。

低酸素とアンチエイジング

本記事は2008年3月8日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです チョモランマ山頂の標高8848㍍では20歳の青年でも90歳の体力になるという。この値は、人間の有酸素能力が標高と共に低下する値を体力年齢に置き換えたときに算出された推定体力年齢である。(鹿屋体育大学・登山運動生理学・山本正義) この考えを当てはめると、2003年に三浦雄一郎が70歳でチョモランマ山頂に立った時の推定体力年齢は143歳。この推定体力年齢は122歳の世界最高齢で生涯を全うしたフラン

祖父が残した、最も偉大な遺産

本記事は2008年3月1日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです 先週末は手稲山大滑降というイベントのため、札幌のテイネハイランドスキー場に行ってきた。 「手稲山大滑降」というのは、3年前に父・雄一郎が考案したスキーレースで、全長6㌔の超ロングコースを使って行われる大会だ。2005年の第1回大会には当時101歳の祖父も参加して、そのことからこの大会は「手稲山大滑降・三浦敬三メモリアル」という冠が付いている。 僕はこの大会が行われるたびに、祖父がこの大会に挑

「ストップ温暖化」胸に

本記事は2008年2月23日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。 先週末、猪苗代町にあるリステルスキー場で行われたフリースタイルスキーのワールドカップで解説を務めた。 リステルスキー場で行われるワールドカップは恒例になっており、特にここのダフィコースで行われるモーグル競技は最大斜度35度を超える世界的な難コースとして有名だ。 その難コースは今年、寒波と大雪で斜面がカチコチに凍り、さらに難易度が上がっていた。前日の公式トレーニングでは世界最高の技術を持って

遠征装備、慎重に点検

本記事は2008年2月16日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。 凍てつくような空気が酸素マスクとゴーグルの間の頬を刺す。ピッケルをつく動作とステップをリズムよく動かしながら、なるべく効率よく登ろうとするが足元の雪は新しくもろい。表面はクラスト状になっていて慎重に足を出さなければ容易に踏み抜いてしまう。 視界はゴーグル越しに自分のヘッドライトが放つ光の輪の範囲だけ。上を見上げると雪の壁は星空まで続いているようだ。ここはチョモランマ…ではなく札幌のテイネハイ

「空気みたいな人」は・・・

本記事は2008年2月9日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。 僕が2003年にエベレストの山頂から下山する途中、標高8600㍍の地点で酸素が無くなった。その時にバランスを崩して2~3歩足に力を入れたが、たったそれだけの動きをするだけで過激な運動をしたように感じてその場に座り込んでしまった。 人間は酸素の供給するエネルギー分しか動けないことを実感する。エベレストの頂上付近では1歩足を前に出すのに20回程呼吸をする。それがこの地点で酸素が許してくれる動きだ

低酸素の知識と実践

本記事は2008年2月2日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。 最近、高所トレッキングを楽しむ中高年が増えてきている。これは2003年に三浦雄一郎がエベレストに登ったこと、そして中高年の登山人気が高まって、これまで一部の登山家だけが目指すようなマニアックな高所登山が増えてきた。しかし同時に事故も増えた。昨年の遠征時に出会った在ネパール日本大使館付の医師によると、6000㍍以上のトレッキングピークへ出かける登山者の中で日本人の事故が一番多いとのことだ。この背

冒険の遺伝子

本記事は2008年1月26日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。 数年前、僕たち家族は「冒険の遺伝子」についてのDNA(デオキシリボ核酸)検査を受けた。冒険の遺伝子とは、ある特殊な遺伝子が人々を危険な行動に駆り立てると言うものだった。 それを僕達、三浦家は持っているのではないかと科学者たちは思ったのだろう。最近ではそんなものまで調べられるのかと驚いたものだ。 父の三浦雄一郎は冒険スキーヤーだ。エベレストを初めて滑った男として知られ、その後世界の7大陸の最

本当の豊かさとは

2008年1月19日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  年末年始は久しぶりにのんびりとテレビを見る時間があった。今年は環境への関心が高いのか環境についての番組が多くみられた。そんな番組の一つでエベレストの氷河湖、インドネシアの森林伐採、フードマイレージなど世界規模で起こっている環境問題を扱っており、その中で気になるトピックが二つあった。  一つは温暖化の影響でヒマラヤの氷河が解け、その水で作られた氷河湖が大きくなりすぎたためいくつもの氷河湖が決壊の恐

人間の能力は鍛え方次第

本記事は2008年1月12日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。 最近、目を見張るのは日本のフィギアスケート陣のレベルの高さであろう。男女共に世界の頂点に立てるスポーツに進化したこの競技はスポーツとはいえ、自分の個性を遺憾なく発揮して芸術の域にまで達しているといっても過言ではない。  同時にその裏でスポーツ選手達が一瞬の輝きを放つために膨大な時間に及ぶ厳しいトレーニングがあったことは想像に難くない。世界で勝ち続けるには単なる才能以上のものが必要であるから

チョモランマで気付くヒトの順応力

本記事は2008年1月5日日経新聞夕刊に掲載されたものに修正加筆したものです。 今年(2008年)はチョモランマの年だ。 5年前から、父、三浦雄一郎と2008年にチョモランマ(8,848m)に登ろうと計画を立てていた。父は現在75歳、今回登頂すると前回70歳で登った最高齢登頂記録を抜くことになる。これまでそのために僕たちは4度のヒマラヤ遠征を重ねた。つい2ヶ月前にもチョモランマのベースキャンプ(BC)から帰ってきたばかりである。