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インドネシア最新法令UPDATE Vol.10:データプロテクション関係の新規則

2020年11月24日、「私的電子システム運営者に関する通信情報大臣規則2020年5号」(以下「本新規則」といいます)が制定され、同日から施行されています。本新規則においては、以下を含む重要な内容が含まれています。

• 外国事業者であってもインドネシア向けに電子システムを提供する場合等には、通信情報大臣への登録が必要(本新規則制定から6か月以内に実施する必要があり、違反の場合には電子システムへのアクセスがブロックされ得る)

• ユーザー生成コンテンツ(UGC:User Generated Contents)型事業者やクラウド事業者に対する規制

• 違法コンテンツのテイクダウン

• 私的電子システム運営者は、当局による監督・刑事訴追のために当局等に対して電子システム・電子データへのアクセスを付与しなければならないこと

個別の内容に入る前に、まずはインドネシアにおけるデータプロテクション法制の全体像を説明します。そして本新規則の説明に先立ち比較的最近の改正である「電子システム・取引の運営に関する政府規則2019年71号」の内容について説明します(本新規則の対象である「私的電子システム運営者」というのは、この政府規則で初めて導入されたコンセプトです)。最後に、政府規則2019年71号の施行規則として制定された本新規則の内容について説明します。すでにインドネシアのデータ保護法制につきキャッチアップされている方は、直接「3. 本新規則の内容」をご覧ください。

1. データプロテクション法制の全体像と最近の動向

インドネシアには、データプロテクション(個人情報保護)に関する包括的な法律はまだ存在しません(2020年1月には、インドネシアで初となる個人情報保護法案が国会に提出されていますが、まだ未制定です)。インドネシアにおいて、データプロテクションにつき規定しているのは以下のレギュレーションになります(効力が高い順に法律→政府規則→通信情報大臣規則となります)。

• 法律レベル:電子情報・取引に関する法律2008年11号(法律2016年19号により改正)

• 政府規則レベル:電子システム・取引運営に関する政府規則2019年71号

• 通信情報大臣規則レベル:電子システムにおける個人情報保護に関する通信情報大臣規則2016年20号

上記2つめの政府規則2019年71号は、2019年10月10日に制定された比較的新しいレギュレーションです。公的電子システム運営者と私的電子システム運営者の区別(この区別は後述の通りデータローカライゼーションとの関係で意味を持ちます)やデータローカライゼーションに関して、重要な改正を含むものとして注目されていました。今回紹介する本新規則は、この政府規則2019年71号で定められた内容を具体化するための施行規則という位置づけになります。このため、本新規則の内容を理解するためには、政府規則2019年71号の内容を理解しておくことが有益です。そこで、まずは政府規則2019年71号の内容を紹介します。

2. 政府規則2019年71号

政府規則2019年71号の重要な内容としては、①公的電子システム運営者と私的電子システム運営者という区別を初めて導入した点と、②これに伴いデータローカライゼーションの範囲を緩和したと考えられる点があります。

(1)公的電子システム運営者と私的電子システム運営者の区別

a. 公的電子システム運営者
公的電子システム運営者には、①政府機関および、②政府機関に指定された機関を指すとされています(政府規則2019年71号2条3項)。

b. 私的電子システム運営者
これに対して私的電子システム運営者には、①管轄官庁により、法令に基づき規律・監督される電子システム運営者および、②インターネットにおいて、ポータル、ウェブサイト、アプリケーションを保有する電子システム運営者が含まれるとされています(政府規則2019年71号2条5項)。要するに、公的電子システム運営者に含まれないものは広く私的電子システム運営者にあたると考えられます。

(2)データローカライゼーションの範囲

上記の公的電子システム運営者と私的電子システム運営者の区別がどのような意味を持つかというと、データローカライゼーションの範囲との関係で意味を持ちます。データローカライゼーションとは、データを保存するサーバーをインドネシアに設置しなければならないという義務を課すものです。インドネシアのユーザー向けのサービスであっても、日本やシンガポールにサーバーを設置したい場合もあることから、データローカライゼーションの適用を受けるか否かが重要な意味を持ちます。政府規則2019年71号においては、公的電子システム運営者のみがデータローカラーゼーション義務を負い、私的電子システム運営者はデータローカライゼーション義務を負わないとされています(政府規則2019年71号20条2項、21条1項等)。

では政府規則2019年71号制定前は、データローカライゼーションの範囲はどのようになっていたのでしょうか。政府規則2019年71号制定前は、データローカライゼーションを負う者の範囲は「公的サービスを提供する電子システム運営者」とされていました(通信情報大臣規則2016年20号17条1項)。つまり、電子システム運営者自体の性質が私的か公的かではなく、電子システム運営者が提供するサービスの性質が私的か公的かがデータローカライゼーションの基準となっていました。政府規則2019年71号によるインパクトとしては、政府規則2019年71号制定前は、私立病院のように公的サービスを提供する私的機関はデータローカライゼーションの対象となり得えたのに対し、政府規則2019年71号の制定により、データローカライゼーションの適用外となった(私的電子システム運営者であるため)という点があるかと思います。ただし、別途個別業法上のデータローカライゼーション規定には留意する必要があります。例えば、医療情報システムで保管される医療データ・医療情報については、データローカライゼーション義務が定められています(医療情報システムに関する政府規則2014年46号19条4項)。

3. 本新規則の内容

本新規則は政府規則2019年71号で導入された公的電子システム運営者と私的電子システム運営者の区別を前提に、私的電子システム運営者が守るべき規制を定めたものです。その主要な内容は以下の通りです。

(1)外国事業者の登録義務

外国の私的電子システム運営者のうち、以下を満たす者については通信情報大臣への登録が必要である旨が明記されています(本新規則4条1項)。

• インドネシアにおいてサービスを提供していること
• インドネシアで事業を行っていること
• インドネシアにおいてその電子システムが利用または提供されていること

なお、本新規則制定前からレギュレーションの解釈上は、外国企業も登録が必要であると解釈されていました。しかし、従前は外国企業が通信情報大臣に対する登録を行うための手続は明記されておらず、実務上は外国企業による登録は行われていない状況でした。本新規則によって外国企業の登録義務が明確化されたことにより、外国企業による通信情報大臣への登録が増える可能性があり、今後の実務動向に注目する必要があります。なお、通信情報大臣に登録済みの事業者は、以下の通信情報大臣ウェブサイトから確認できます。

外国の私的電子システム運営者が通信情報大臣への登録を行わなかった場合には、通信情報大臣は、当該電子システムへのアクセスをブロックすることができるとされています(本新規則7条2項)。電子システム運営者は、本新規則制定から6か月間の間に通信情報大臣に対する登録を行う必要があるとされています(本新規則47条)。インドネシアで電子システム運営を行う皆様においては、この期間内に対応を検討されることが望ましいと思われます。

(2)ユーザー生成コンテンツ(UGC:User Generated Contents)型事業者に対する規制

ユーザー生成コンテンツ型事業者とは、電子システム上のコンテンツの提供・アップロード等がユーザーにより行われる電子システムの運営者を指します(本新規則1条7号)。ユーザー生成コンテンツ型事業者がユーザーによりアップロードされた違法なコンテンツにつき責任を負うかという点は従前より議論されてきましたが、インドネシアではあまりクリアな答えはありませんでした。本新規則では、この論点につき一定の明確化が図られています。

ユーザー生成コンテンツ型事業者は、以下の措置を講じていた場合にはその電子システム上で流通した違法なコンテンツにつき責任を免れると規定されています(本新規則11条)。

• 本新規則9条3項、10条【注:違法コンテンツ流通防止措置や通報制度の導入等】の措置を講じていること

• 違法なコンテンツをアップロードしたユーザーの情報を監督・法執行のために提供すること

• 違法なコンテンツへのアクセスをブロックすること

逆にいうと、ユーザー生成コンテンツ型事業者もユーザーがアップロードするコンテンツにつき無限に免責されるわけではなく、事業者側にも一定の措置が求められる点に留意が必要と考えられます。

(3)その他

本新規則においては、上記の他にもクラウド事業者の義務や違法なコンテンツのテイクダウン、私的電子システム運営者は当局による監督・刑事訴追のために当局等に対して電子システム・電子データへのアクセスを付与しなければならないこと等、さまざまな規定が定められています。ご興味のある方は、ご遠慮なくお問い合わせください。

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Author

弁護士 井上 諒一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2014年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2015~2020年3月森・濱田松本法律事務所。2017年同事務所北京オフィスに駐在。2018~2020年3月同事務所ジャカルタデスクに常駐。2020年4月に三浦法律事務所参画。2021年1月から現職。英語のほか、インドネシア語と中国語が堪能。主要著書に『インドネシアビジネス法実務体系』(中央経済社、2020年)など

この記事は、インドネシアの法律事務所であるPrihandana Suko Prasetyo Adi弁護士(PHG Law)のインプットを得て作成しています。

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