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労働法UPDATE Vol.1:「同一労働同一賃金」に関する5つの最高裁判決

令和2年10月13日および同月15日に、正社員と有期契約の社員(いわゆる「非正規社員」)との間の待遇格差の合理性(いわゆる「同一労働同一賃金」)に関する5つの最高裁判決が出されました。そこで、今回はこの5つの最高裁判決の概要について簡単にご紹介します。

1. 5つの最高裁判決において検討された法制度

今回、最高裁判決で問題となっていたのは正社員と非正規者員との待遇格差の問題であり、具体的には労働契約法の旧20条の該当性についての判決となります。なお、現在は労働契約法の旧20条は廃止され、同趣旨の内容は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下、「パートタイム・有期雇用労働法」といいます。)の8条の中で定められています。

労働契約法旧20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」

パートタイム・有期雇用労働法8条(不合理な待遇の禁止)
「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」

上記労働契約法旧20条では、正社員と非正規者員との間では期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止が定められており、不合理性の判断基準として、以下の3点を挙げています。

① 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(「職務の内容」)
② 当該職務の内容及び配置の変更の範囲
③ その他の事情

そして、この条文を根拠に種々の待遇差に関して不合理な労働条件であることを理由とした損害賠償請求等の訴訟が相次いでなされ、平成30年には初めて労働契約法20条に関する最高裁判例が2つ出されました(ハマキョウレックス事件【最二判平成30年6月1日民集72巻2号88頁】、長澤運輸事件【最二判平成30年6月1日民集72巻2号202頁】)。

今回出された5つの最高裁判決はこの2件に続く新たな最高裁判決であり、特にこれまで最高裁判決として判断されていなかった、賞与、退職金、各種休暇等について初めて判断がなされた重要な判決になります。

2. 各最高裁判決の事案概要と争点となった待遇格差について

今回出された5つの最高裁判決の事案の概要は、それぞれ以下の通りです。

① 大阪医科大学事件(最三判令和2年10月13日)
本件は、大学に勤務していたアルバイト職員(有期労働契約)と正職員(無期労働契約)との間で、賞与および業務外の疾病による欠勤中の賃金等に相違があることは労働契約法20条に違反するとして、アルバイト職員が大学に対し、不法行為に基づき上記相違に係る賃金相当額等の損害賠償を求めた事案です。本事案については、大阪地判平成30年1月24日(労判1175号5頁)、大阪高判平成31年2月15日(労判1199号5頁)を経て、今回最高裁判決が出されています。

② メトロコマース事件(最三判令和2年10月13日)
本件は、東京メトロの駅構内の売店における販売業務に従事していた有期契約労働者らが、同様の業務に従事している無期契約労働者との間で退職金等に相違があることは労働契約法20条に違反するものであったなどと主張して、会社に対し、不法行為等に基づき上記相違に係る退職金相当額等の損害賠償等を求めた事案です。本事案については、東京地判平成29年3月23日(労判1154号5頁)、東京高判平成31年2月20日(労判1198号5頁)を経て、今回最高裁判決が出されています。

③ 日本郵便(東京)事件(最一判令和2年10月15日)
本件は、時給制契約社員(有期労働契約)らが正社員(無期労働契約)との間で、年末年始勤務手当、病気休暇、夏期冬期休暇等に相違があることは労働契約法20条に違反するものであったと主張して、会社に対し、不法行為に基づき上記相違に係る損害賠償を求めるなどの請求をした事案です。本事案については、東京地判平成29年9月14日(労判1164号5頁)、東京高判平成30年12月13日(労判1198号45頁)を経て、今回最高裁判決が出されています。

④ 日本郵便(大阪)事件(最一判令和2年10月15日)
本件は、時給制契約社員(有期労働契約)らが正社員(無期労働契約)との間で、年末年始勤務手当、病気休暇、夏期冬期休暇等に相違があることは労働契約法20条に違反するものであったと主張して、会社に対し、不法行為に基づき上記相違に係る損害賠償を求めるなどの請求をした事案です。本事案については、東京地判平成29年9月14日(労判1164号5頁)、東京高判平成30年12月13日(労判1198号45頁)を経て、今回最高裁判決が出されています。

⑤ 日本郵便(佐賀)事件(最一判令和2年10月15日)
本件は、時給制契約社員(有期労働契約)が、正社員(無期労働契約)との間で、夏期冬期休暇等に相違があることは労働契約法20条に違反するものであったと主張して、会社に対し、不法行為に基づき上記相違に係る損害賠償を求めるなどの請求をした事案です。本事案については、佐賀地判平成29年6月30日(労経速2323号30頁)、福岡高判平成30年5月24日(労経速2352号3頁)を経て、今回最高裁判決が出されています。

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3. 5つの最高裁判決における不合理性の判断と共通する判断の枠組み

5つの最高裁判決に関しては、10月13日に出された大阪医科大学事件・メトロコマース事件と、10月15日に出された3つの日本郵便事件とで不合理性の判断が分かれることとなりました。

すなわち、10月13日に出された大阪医科大学事件・メトロコマース事件の判決では、賞与・退職金を支給しないことが「不合理ではない」と判断されましたが、同月15日に出された3つの日本郵便事件(東京・大阪・佐賀)では、年末年始手当や祝日休、扶養手当、夏季冬季休暇といった待遇差について、いずれも「不合理である」と判断されました。

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もっともいずれの最高裁判決においても、その検討されている要素は明確です。すなわち、各種待遇(賞与制度、退職金制度、各種休暇、手当)の趣旨・目的を明確にしたうえで、その趣旨・目的を踏まえて有期契約労働者及び比較対象となる無期労働者(いわゆる正社員)との間の①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(「職務の内容」)、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情に関する相違によって、各種待遇に関し格差をつけることが不合理であるかどうかを判断しています。

なお、労働契約法旧20条のときには、各種待遇の目的・趣旨といった点に関しては特段、条文上にその記載はありませんでしたが、この判断の手法自体は、従前の最高裁判決であるハマキョウレックス事件、長澤運輸事件でも同様の手法を取っています。また、パートタイム・有期労働法8条には、「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して」といった文言が存在しており、この点も現在は条文上で明確化されているところです。

以上、今回は、最高裁判決の前提となる労働契約法旧20条の簡単な説明と、5つの最高裁判決の事案、争点、結論を簡潔にまとめさせていただきましたが、次回以降は、各最高裁判決に関し、各種待遇の相違の合理性、不合理性を具体的にどのようなポイントで判断したのか、その詳細についてご紹介していきたいと思います。


Authors

弁護士 大村 剛史(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2007年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、牛島総合法律事務所(~2011年)、高井・岡芹法律事務所(2011~2019年8月)を経て、2019年9月から現職。日々の人事労務問題、就業規則等の社内規程の整備、労基署、労働局等の行政対応、労働組合への対応(団体交渉等)、紛争対応(労働審判、訴訟、労働委員会等)、企業再編に伴う人事施策等、使用者側として人事労務に関する業務を中心に、企業法務全般を取り扱う(取扱案件数3500件以上)

弁護士 菅原 裕人(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2016年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。高井・岡芹法律事務所(~2020年8月)を経て、2020年9月から現職。日々の人事労務問題、就業規則等の社内規程の整備、労基署、労働局等の行政対応、労働組合への対応(団体交渉等)、紛争対応(労働審判、訴訟、労働委員会等)、企業再編に伴う人事施策等、使用者側として人事労務に関する業務を中心に、企業法務全般を取り扱う

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