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ベトナム最新法令UPDATE Vol.3:ベトナム労働法の改正

ベトナムでは2019年11月に労働法が改正され、2021年1月から施行されています。労働法改正のインパクトとしては、個人事業主やいわゆるギグワーカー等、従前は労働法による保護を受けなった個人に対しても、労働法による保護が拡大される可能性がある(雇用主からみると、今までは労働者として扱う必要が無かった個人についても、労働者として扱う必要が生じる可能性がある)という点があります。

1. 従業員の定義の拡大

改正前の2012年の労働法(以下「2012年労働法」といいます)では、従業員とは、雇用契約(hợp đồng lao động)に基づいて、雇用者の管理の下、雇用者の為に労働し、賃金を受け取るものとされていました(2012年労働法3条1項1 号)。一方、2019年の労働法(以下「2019年労働法」といいます)では、従業員とは契約(thỏa thuận)に基づいて雇用者の管理の下、雇用者の為に労働し、賃金を受け取るものとされています(2019年労働法3条1項)。これにより、「雇用契約」を結んでいない個人であっても、「従業員」に当たる可能性が生じています。

2. 雇用契約の定義の拡大

2012年の労働法では、雇用契約とは従業員と雇用者間との間で締結される仕事内容、給与、労働関係における各当事者の権利義務に関しての契約とされていました(2012年労働法15条1項)。2019年の労働法でも、「雇用契約」の定義については、2012年労働法と同様のものとなっています。もっとも、2019年労働法では、「雇用契約」という名称が用いられていなくても、契約に仕事内容、給与、管理、監督に関する記載があれば、雇用契約とみなすという内容が追加されています(2019年労働法13条1項後段)。

3. 雇用関係のない従業員への労働法の適用

2019年の労働法では、労働法の適用範囲に「労働関係を有さずに働く者」が新たに追加されています(2019年労働法2条)。「労働関係を有さずに働く者」とは、雇用契約に基づき雇用されずに働く者と定義されています。これにより、雇用契約に基づかずに一定の業務を提供する者に対しても、労働法が適用される余地が生じたことになります。

4. 検討

以上の労働法改正を全体として考察すると、例えば、会社が「業務委託契約」のような形で個人に対して業務を委託している場合であっても、毎月決まった業務委託料が支払われ、かつその個人が会社からの指示に従うような内容となっている場合には、「雇用契約」とみなされる可能性があると考えられます。

また、デジタルエコノミーの進展により、例えば「Grab」というタクシー配車アプリが発展しています。「Grab」のドライバーと「Grab」との間の契約は、「業務提携契約」と考えられており、現状では、「Grab」のドライバーは個人事業主として扱われています。もっとも、上記改正により、ドライバーが従業員とみなされる可能性もあるように思われます(ドライバーが、Grabの定めるユニフォーム着用義務等の管理・監督に服しているという事情はドライバーが従業員とみなされる方向に働きますが、ドライバーはGrabから直接給料を受け取っているわけではなく、顧客から受け取っているという点は、ドライバーは従業員ではないという方向に働きます。このように、個人が「従業員」とみなされるかについては、事実関係により左右されるため、個別具体的な検討が必要となります)。

もし個人が「従業員」とみなされた場合には、会社としては、その個人に対して固定給を支払ったり、その個人を各社会保険に加入させたりする義務を負う可能性がある点に留意が必要となります。


Author

弁護士 井上 諒一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2014年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2015~2020年3月森・濱田松本法律事務所。2017年同事務所北京オフィスに駐在。2018~2020年3月同事務所ジャカルタデスクに常駐。2020年4月に三浦法律事務所参画。2021年1月から現職。英語のほか、インドネシア語と中国語が堪能。主要著書に『インドネシアビジネス法実務体系』(中央経済社、2020年)など

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