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ポイント解説・金商法 #19:資産運用・アセットマネジメント関連の2024年金商法及び投信法の改正

2024年5月15日、「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案」が成立し、同月22日に公布されました(以下「本改正法」といいます。)。

本改正法は、金融庁の金融審議会のワーキング・グループから公表された、①2023年12月12日付「市場制度ワーキング・グループ・資産運用に関するタスクフォース報告書」(以下「TF報告」)と②2023年12月25日付「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ報告」とに基づくものです。本稿では、このうち①についてTF報告の内容が本改正法にどのように盛り込まれたのかを中心にポイントを概説します(②については、
ポイント解説・金商法 #18
をご参照下さい。)。


1. 任意登録制によるミドル・バックオフィスの業務受託と投資運用業の参入要件の緩和
(TF報告Ⅲ3①ア)

(1)任意登録制による投資運用関係業務受託業

金融商品取引業への参入には人材の確保が必要であるところ、投資運用業についてはミドル・バックオフィスの人材を確保する負担が大きいことが指摘されており、適切な品質が確保された事業者へのミドル・バックオフィス業務の外部委託を可能とし、このような事業者へ外部委託を行う場合には、投資運用業の参入要件が一部緩和することが提言されていました。

これを受けて、本改正法では、投資運用業等に関して行う以下に掲げる業務を「投資運用関係業務」と定義し(金商法2条43項)、また、投資運用業等を行うことができる者の委託を受けて、当該委託をした者のために投資運用関係業務のいずれかを業として行うことを「投資運用関係業務受託業」と定義し(同条44項)、これを行う者は、登録を受けることが「できる」(金商法66条の71)という任意の登録制としました。

【投資運用関係業務】
① 運用対象財産を構成する有価証券その他の資産及び当該資産から生ずる利息又は配当金並びに当該運用対象財産の運用に係る報酬その他の手数料を基礎とする当該運用対象財産の評価額の計算に関する業務

② 法令、法令に基づく行政官庁の処分又は定款その他の規則を遵守させるための指導に関する業務

投資運用関係業務受託業者には、TF報告における「投資家保護を軽視する質の低い事業者がこうした委託を受けることがないよう」参入規制の他、行為規制を課し、当局による監督対象とし業務の質を確保することが適当であるとの提言に基づき、誠実義務、忠実義務、業務管理体制の整備義務、禁止行為その他の業務に関する規制が適用され(同法66条の76~66条の81)、業務改善命令、業務停止命令、登録取消処分、報告徴取及び検査その他の監督に関する規定も設けられました(金商法 66条の82~66条の89)。

任意の登録制度であり、本改正法の施行日以後も、登録を受けなくても投資運用関係業務受託業を営むことが認められます。他方で、投資運用関係業務受託業の登録を受けた場合、金商法に基づく規制・監督を受けることになるものの、投資運用業を行おうとする者がこの登録業者に投資運用関係業務を委託する場合には、下記(2)のとおり、金融商品取引業の登録の要件が緩和されることになるため、ミドル・バックオフィス業務受託のビジネスの機会が高まることになるものと考えます。

(2)投資運用業の参入要件の緩和

TF報告では、(1)とセットで投資運用業の参入要件を緩和することが提言されていました。

これを受けて、本改正法では、登録拒否要件の見直しが行われ、投資運用業の登録に際して求められる人的構成要件の例外として、登録申請者が投資運用関係業務を投資運用関係業務受託業者に委託する場合において、当該業者の業務の監督を適切に行う能力を有する役員・使用人を確保していれば足りるものとされました(下記の太線部分。金商法29条の4第1項)。

【金融商品取引業の登録拒否要件(人的構成要件)の明確化】
① 暴力団又は暴力団員との関係その他の事情に照らし、金融商品取引業の信用を失墜させるおそれがあると認められる者が登録拒否要件となる(1号ホ(1))

② 登録申請者が法人である場合、登録申請の対象となる金融商品取引業に係る業務のそれぞれにつき、その執行について必要となる十分な知識及び経験を有する役員又は使用人を確保していないと認められる者が登録拒否要件となる(1号の2本文)

但し、登録申請者が投資運用関係業務を投資運用関係業務受託業者に委託する場合における当該投資運用関係業務については、その業務の監督を適切に行う能力を有する役員又は使用人を確保していれば足りる(1号の2但書)

なお、TF報告では、原則として自らが金銭等の預託を受けない場合には、投資運用業の登録要件(資本金・体制整備等)を緩和することが適当であると提言されたことを踏まえて、政令の改正により、これらの緩和が行われることになるものと考えます。

2. 運用指図権限の全部委託を可能とする改正(TF報告Ⅲ3①イ)

TF報告では、投資運用業者の運用の指図に係る権限の全てを外部委託することはできない現行法について、委託先の管理について必要な制度の整備を行い、見直しを行うことが提言されていました。

これを受けて、本改正法では、運用権限の全部委託を禁止する金商法42条の3第2項を改正し、運用の対象及び方針を示し、運用状況の管理その他の当該委託に係る業務の適正な実施を確保するための措置を講じることで、運用権限の全部を委託することができることとしました。また、併せて、投資信託委託会社及び投資法人の資産運用会社の運用の委託に関する投信法の規定も改正されました(投信法202条など)。

これにより、投資実行の機能を全て外部委託し、自らは運用の対象と方針のみを決定する業務に特化することが可能となります。

3. 非上場有価証券の取引の活性化

(1)プロ投資家を対象とする非上場有価証券の仲介業(TF報告Ⅵ4①)

TF報告では、非上場有価証券の換金ニーズを満たす方策が限られており、我が国のスタートアップ企業に小粒上場が多い結果につながっているとの指摘から、プロ投資家(特定投資家)を対象とした非上場有価証券の仲介を行う金融商品取引業者の参入要件を緩和することが提言されていました。

これを受けて、本改正法では、第一種金融商品取引業のうち、以下の行為のいずれかを業として行うことを「非上場有価証券特例仲介等業務」と定義し(金商法29条の4の4第8項)、非上場有価証券特例仲介等業務のみを行う第一種金融商品取引業者について、自己資本規制比率に関する規制、兼業規制及び金融商品取引責任準備金の積立に関する規制の適用を除外することとし、規制緩和が図られています(同条1項~6項)。

① 有価証券(非上場かつ政令で定めるものを除く。)に係る次に掲げる行為
(i)売付けの媒介又は有価証券の募集・売出しの取扱い若しくは特定投資家向け売付勧誘等の取扱い(一般投資家を相手方として行うもの及び一般投資家に対する勧誘に基づき当該一般投資家のために行うものを除く。)
(ii)買付けの媒介(一般投資家のために行うもの及び一般投資家に対する勧誘に基づき当該一般投資家を相手方として行うものを除く。)

② ①に掲げる行為に関して顧客から金銭の預託を受けること
(①に掲げる行為による取引の決済のために必要かつ、当該預託の期間が政令で定める期間を超えないもの)

(2)非上場有価証券のみを扱う私設取引システムの参入要件の緩和(TF報告Ⅵ4②)

TF報告では、現行法において認可を受けることが必要とされている私設取引システム(PTS)運営業務に関しては、実際に取り扱う有価証券の流動性の高低にかかわらず主に上場有価証券等を扱うことを想定した規制となっているため、非上場有価証券のみを扱うPTSであって、流動性や取引規模等が限定的なものについては、認可を要さず、第一種金融商品取引業の登録制の下で参入可能とすることが提言されていました。

これを受けて、本改正法では、PTS運営業務を非上場の株式・新株予約権などの有価証券のみについて行う場合であって、PTS運営業務に係る有価証券の売買高の合計額が政令で定める基準以下のときは、認可を要さず、第一種金融商品取引業の登録により行うことができることとされています(金商法30条1項但書)。

4. 施行日と今後の動向

本改正法のうち、本稿で取り上げた内容の施行日については、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされています(本改正法附則1条本文)。

今後、本改正法の施行に向けて同法施行令・内閣府令事項が検討され、改正案が公表・パブリックコメントに付されるであろうと共に、TF報告における法令事項以外の内容も、今後、関係各所での検討とその内容が公表されるであろうことから、このような動向については注視が必要となります。

TF報告の資産運用に関する法令事項以外の動向は、以下のとおりです。


Authors

弁護士 峯岸 健太郎(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2001年一橋大学法学部卒業、2002年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、一種証券外務員資格。19年1月から現職。06年から07年にかけては金融庁総務企画局企業開示課(現 企画市場局企業開示課)に出向(専門官)し、金融商品取引法制の企画立案に従事。
『ポイント解説実務担当者のための金融商品取引法〔第2版〕』(商事法務、2022年〔共著〕)、『実務問答金商法』(商事法務、2022年〔共著〕)、『金融商品取引法コンメンタール1―定義・開示制度〔第2版〕』(商事法務、2018年〔共著〕)、『一問一答金融商品取引法〔改訂版〕』(商事法務、2008年〔共著〕)等、著書・論文多数。

弁護士 所 悠人(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2014年早稲田大学法学部卒業、2016年早稲田大学法科大学院修了、2017年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。2021年8月入所(2024年1月より現職)。ファイナンス、スタートアップ・プラクティス、金融レギュレーションを軸としつつ、M&A・紛争を含む企業法務全般を広く取り扱う。
主要著書・論文は、『ポイント解説実務担当者のための金融商品取引法〔第2版〕』(商事法務、2022年〔共著〕)、『消費者取引とESG(第4回)「競争法規制とESG」』(NBL No.1223、2022年〔共著〕)等。

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