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インドネシア最新法令UPDATE Vol.7:インドネシアP2Pレンディングに規制強化の動き?

インドネシア最新法令UPDATE番外編でご紹介したインドネシアのP2Pレンディングに、規制強化の動きが出ています。

インドネシアのフィンテック協会であるAFPIが、P2Pレンディング規則の改正案を取りまとめ、これを大手財閥や有力なP2Pプレーヤーに共有し、意見募集を行っています。意見募集の内容は一般向けには公開されていませんが、このP2Pレンディング規則改正に関する意見募集ドラフトは、インドネシアのP2P事業に投資する日本企業にとって非常に重要な内容を含んでいます。今後の方向性は現状まだ不透明ですが、P2Pレンディング規制が向かう方向を理解することは、投資・事業戦略を構築する上で重要ですので、本記事では規制強化の可能性がある内容を紹介します。

1. 外国株主の要件

現行のP2Pレンディング規則では、外国株主の要件は特段規定されていません。しかし改正案においては、外国法人がP2Pオペレーターの株主になるためには、その外国法人は「金融セクターの事業を行う」ものでなければならないとされています(改正案3条2項)。

「金融セクターの事業を行う」の具体的な意味については明らかにされていません。銀行や証券会社のように外国の金融当局の許認可を受けている必要があるのか、広い意味で金融に関係する事業を行っている商社やベンチャーキャピタルであっても「金融セクターの事業を行う」とみることができるのか、改正案自体の文言からは明らかではありません。改正案が成立し、「金融セクターの事業を行う」の意味が狭く解釈されて銀行や証券会社でなければP2Pオペレーターの株主になることができないという運用がなされる場合、商社やベンチャーキャピタル等はP2Pオペレーターへのエクイティー投資ができなくなる可能性もゼロではないように思われ、この点は今後の動向に着目する必要があります。

ただし、この外国株主が「金融セクターの事業を行う」ものでなければならないという要件は、新法が制定された時点ですでにライセンスを取得していたP2Pオペレーターには適用されないとされています(改正案115条4項)。したがって、現在または新法制定前にすでにP2Pオペレーターの株主となっている日本企業は、改正案が成立したとしても株式を手放す必要は生じないことになります。

2. 株主の変更に関する制限

現行のP2Pレンディング規則においては、株主がP2Pオペレーターの株式を取得したあと一定期間株式譲渡が禁止されるというような規制はありませんでした。

改正案においては、P2Pオペレーターの株主の変更は、ライセンス発行または株主変更許可の日から3年間は認められないものとされています(改正案60条5項a)。

この改正案が成立すると、P2Pオペレーターにエクイティー投資をし、バリューアップの上で株式を第三者に譲渡することによりエグジットすることを想定しているベンチャーキャピタルにおいては、最低3年間はP2Pオペレーターの株式を保有しなければならないという制約がかかることになります。また、エクイティー投資フェーズにおいても、P2Pオペレーターがライセンス取得後3年未満の場合、株主変更が認められないためライセンス取得後3年を経過していることを確認しておくことが必要です。

さらに、株主変更は払込資本金の増加を伴う必要があるとされているので(改正案60条5項a)株式を譲り受けるだけでは足りず、新株引受けも一部組み合わせる必要が生じます。

3. プロダクティブセクター・ジャワ島以外への貸付要件

現行のP2Pレンディングにおいては、貸付先のポートフォリオにつき特段の規制は置かれていません。改正案においては、ポートフォリオの一定割合をプロダクティブセクターおよびジャワ島以外への貸付にあてなければならないとされています(改正案39条)。「プロダクティブセクター」が何を指すかは明らかではありませんが、製造業等向けの貸付等を指すように思われます。P2Pレンディングが中小企業等によるファイナンス手段の一つとして活用されるようになることを促す狙いがあるように思われます。また、ジャワ島以外への貸付規制については、首都ジャカルタが位置するジャワ島以外の地域では金融包摂が大幅に遅れていることから、一定割合をジャワ島以外へのレンディングにあてることを義務付けることでジャワ島以外の金融包摂を進める狙いがあるように思われます。

一定割合は、以下の通りとされています。

プロダクティブセクター:40%
以下の段階を経て実現
1年目:15%
2年目:30%
3年目:40%

ジャワ島以外への貸付:25%
以下の段階を経て実現
1年目:15%
2年目:20%
3年目:25%

4. 払込資本金・エクイティーに関する規制強化

現行のP2Pレンディング規則では、P2Pオペレーターは登録時に10億ルピア(約727万円)、ライセンス申請時に25億ルピア(約1,817万円)の払込資本金を有する必要があるとされています。改正案においては、ライセンス時に150億ルピア(約1億900万円)の最低資本金を有する必要があるとされています(改正案4条)。最低資本金の額が大幅に増額されています。

また、改正案では「払込資本金」とは別に「インドネシアの会計基準に基づくエクイティー」に関する規制が加えられています。すなわち、P2Pオペレーターはローン総額の0.5%または100億ルピアの「エクイティー」(インドネシア会計基準により計算)を有する必要があるとされています(改正案52条)。この要件は新規則制定から2年以内に満たす必要があり、初年度段階で50億ルピアの「エクイティー」、2年目で100億ルピアの「エクイティー」を満たさなければならないとされています。

5. P2Pオペレーターの役員に関する要件

現行のP2Pレンディング規則では、取締役、コミサリスの要件として、取締役のうち最低1人、コミサリスのうち最低1人は、金融業界での経験を最低1年有する必要があるとされています。

改正案では、P2Pオペレーターは最低2名の取締役を有する必要があり、その半数以上は金融業界においてマネジメントレベルの経験を最低2年有する必要があるとされています。①取締役の人数が「最低1人」から「半数以上」に増え、②金融業界での経験に関する要件は、その年数が「1年」から「2年」への増加したのに加え、「マネジメントレベル」という要件が追加されています。さらに、P2Pオペレーターの取締役は、他の会社における役職と兼業してはならない旨が明記されました(改正案12条4項)。外国人を取締役に選任することができるかという点に関しては、外国法人がP2Pオペレーターの株主になっている場合には、最大半数まで外国人を取締役として選任することができるとされています(改正案12条5項)。

また、コミサリスに関しては①最低2名必要であり、②半数以上は金融業界においてマネジメントレベルの経験を最低2年有する必要があるという点は取締役と同様となっています(改正案13条1項、2項)。兼業の可否については、P2Pオペレーターのコミサリスのほかに、他社1社における役職のみ兼業が可能とされています(改正案13条3項)。外国法人が株主となっている場合に半数まで外国人をコミサリスとして選任することができるという点は、取締役と同様となっています(改正案13条4項)。

6. まとめ

上記はあくまでフィンテック協会(AFPI)が取りまとめ、大手財閥やP2Pプレーヤーに意見募集のために交付しているドラフト段階のものになります。まだ制定されているわけではありません。意見募集の過程で内容に変更が生じる可能性もあり、今後の動向に着目する必要があります。


Author

弁護士 井上 諒一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2014年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2015~2020年3月森・濱田松本法律事務所。2017年同事務所北京オフィスに駐在。2018~2020年3月同事務所ジャカルタデスクに常駐。2020年4月に三浦法律事務所参画。2021年1月から現職。英語のほか、インドネシア語と中国語が堪能。主要著書に『インドネシアビジネス法実務体系』(中央経済社、2020年)など

この記事は、インドネシアの法律事務所であるARMA Lawのインプットを得て作成しています。

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