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インドネシア最新法令UPDATE Vol.3:建設業法施行規則(後編)ー 建設業ライセンスにより電力関係工事も実施可能か

2020年4月23日に建設業法の施行規則を定める政府規則2020年22号(「本新規則」)が制定されました。本新規則には、外資建設会社や外国駐在員事務所による一定の法令違反につき、最大で契約金額全体の20%の罰金が課され得る旨を明確化する等、重要と思われる内容が含まれています。

インドネシアの建設業について規律する法律は2017年に制定された建設業法(法律2017年2号)です。もっとも、建設業実務においては直近の外資建設会社に関する朝令暮改的な法改正や、電力関係業法とのすみ分け等に関して実務上の混乱・不明確な点がみられ、建設業法の施行規則による明確化が待たれていました。本新規則は、この「建設業法の施行規則」にあたります。

本稿では前編と後編とに分けて、①本新規則による外資建設会社や外国駐在員事務所に対する罰則の明確化(これに関連して、外資建設会社に対する直近の規制動向)と、②建設業法と電力関係業法のすみ分け(建設業ライセンスにより電力関係工事も実施可能か)について説明します。

建設業法と電力関係業法のすみ分け(建設業ライセンスにより電力関係工事も実施可能か)

インドネシアの建設業者は、建物の建設等の一般的な工事のみならず電力インストレーション等、電力関係工事を実施することがあります。もっとも、電力関係の工事を建設業ライセンスで実施することが可能であるかは、電力関係業法とのすみ分けの観点から従前から議論がなされています。このような観点から、建設業法と電力関係業法の関連する規定に触れつつ本新規則制定の内容を検討します。

1. 建設業法上の規定

旧建設業法(法1999年18号。2017年の新建設業法により廃止)やその施行規則においては、電気関係の工事についても建設業ライセンスのカバー範囲とされてきました。建設業ライセンスにおいてはどのような工事が実施可能かを特定するため、「細分類コード」と「細分類の内容」が記載されます(以下のようなイメージです)。

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「細分類コード」と「細分類の内容」については、①政府規則2010年92号(本規則により廃止)が基本的な枠組みを定め、②公共事業大臣規則2014年19号が詳細を規定しています。

政府規則2010年92号(本規則により廃止)において、建設業ライセンスの細分類として、「メカニカル・電力に関するインストレーション」が含まれる旨が明記されていました(政府規則2010年92号8A2項c)。そしてこれに基づき、公共工事住宅大臣規則2014年19号において「建物や工場における電力インストレーション工事」(細分類コード:EL010)や「その他の電力インストレーション工事」(細分類コード:EL011)等が細分類として挙げられていました。したがって、これらの細分類が建設業ライセンスに含まれていれば該当する電力関係工事を行うことも可能と考えられてきました(例えば、上記例では建設業ライセンスにEL010やEL011が含まれているため、対応する電力関係工事も実施可能と考えられます)。

2. 電力業法との関係

もっとも、2009年に施行された電力法や、その施行規則である電力サポート業に関する政府規則2012年62号において、電力サポート業を行うためには、電力サポート業ライセンス(IUJPTL:Izin Usaha Jasa Penunjang Tenaga Listrik)を取得する必要があると規定されました。電力サポート業には、電力インストレーションも含むとされています(政府規則2012年62号2条)。これにより、電力関係の工事、特に電力インストレーションについては、建設業法と、電力業法の両方に規定がある状態となり、これを実施するために、①建設業ライセンスのみで足りるのか、②電力サポート業ライセンスのみで足りるのか、③これらの両方を取得する必要があるのか、不明確な状況となっていました。

3. エネルギー天然資源省と公共事業省との間の調整

2017年に、新建設業法が制定されましたが、新建設業法上も、上記の論点に関する回答は明示されていませんでした。このような状況を打開するための政府側の取り組みとして、2017年9月25日付で、エネルギー天然資源省から公共事業省に宛ててレターが出されています。このレターにおいては、「電力関係法令において、電力インストレーション等につき既に規定されていることから、今後制定予定の新建設業法の施行規則においては、電力インストレーション等については規制対象外とするよう取り図られたい」旨が規定されています。このレターで言及されている「今後制定予定の新建設業法の施行規則」が、まさに本新規則になります。

4. 本新規則の内容

本新規則では、上記レターの内容に沿う形で電力関係工事が建設業ライセンスのカバー範囲から外れることを前提と解釈し得る内容となっているように思われます。

すなわち、旧政府規則(本新規則により廃止されるに至ったもの)においては「メカニカル・電力に関するインストレーション」が建設業ライセンスの細分類に含まれる旨が明記されていました(政府規則2010年92号8A2項c)。これに基づき、公共事業大臣規則2014年19号において、「建物や工場における電力インストレーション工事」(細分類:EL010)や「その他の電力インストレーション工事」(EL011)が、建設業ライセンスの細分類として規定されていました。これに対して、新規則においては細分類の内容として、単に「インストレーション」とのみ規定されており(18条2項a)、旧政府規則においてみられた「メカニカル・電力に関する」という文言は削除されています。

5. 今後の展望

現在、細分類の詳細について規定しているのは公共事業大臣規則2014年19号ですが、今後、これに替わる新たな公共事業住宅大臣規則が新規則に基づき制定されることが想定されます。上記経緯に照らすと、新たに制定される公共事業住宅大臣規則においては電力関係工事に対応する細分類(現状の、EL010やEL011等に対応するもの)は規定されないことが予想されます。このため、新たな公共事業大臣規則が制定されるにいたった後は、建設業ライセンスを取得して電力関係工事を行うことはできなくなる可能性があります。

新規則においては政府規則2010年92号自体が廃止されるものとされていますが、政府規則2010年92号の施行規則は引き続き有効とされています。現時点で細分類の詳細を定める公共事業大臣規則2014年19号は、「政府規則2010年92号の施行規則」にあたるため、引き続き効力を有することになります。したがって、現時点で、公共事業大臣規則2014年19号に基づき「建物や工場における電力インストレーション工事」(細分類コード:EL010)や「その他の電力インストレーション工事」(細分類コード:EL011)を含む建設業ライセンスを有する事業者は、引き続き電力関係工事を行うことができると解釈する余地があると考えらえられます。しかし、今後、建設業ライセンスの細分類に関する新たな公共事業大臣規則が制定されるにいたった後は、ライセンス更新のタイミング等において、「建物や工場における電力インストレーション工事」(細分類:EL010)や「その他の電力インストレーション工事」(EL011)等を維持できなくなる可能性があります(もっとも、いわゆるグランドファーザー条項のような形で、既にこれらを含む建設業ライセンスを取得していた事業者については、引き続き実施可能とされる可能性もあるかと思われます)。

したがって、現在建設業ライセンスを根拠に電力関係工事を実施している事業者においては、今後の公共事業大臣規則の制定状況を注視するとともに電力工事については、電力サポート業ライセンスが必要となった場合のビジネスモデルにつき、検討を開始しておくことが考えられます。


Author

弁護士 井上 諒一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2014年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2015~2020年3月森・濱田松本法律事務所。2017年同事務所北京オフィスに駐在。2018~2020年3月同事務所ジャカルタデスクに常駐。2020年4月に三浦法律事務所参画。2021年1月から現職。英語のほか、インドネシア語と中国語が堪能。主要著書に『インドネシアビジネス法実務体系』(中央経済社、2020年)など

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