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インドネシア最新法令UPDATE Vol.21:就業規則に関する規定

直近では入国制限の緩和から日系企業のインドネシア進出も活発になってきました。また、進出済み企業においても新たな駐在員が多く着任しているように見受けられます。

また、いわゆるオムニバス法やその施行規則により、労働法制について雇用者側に有利な(労働者の保護を弱める)改正がなされており、これを就業規則に反映させるにはどうすればよいかとったご相談も寄せられています。

以下では、人事労務の中でもほぼ全ての進出企業に関係のある就業規則について解説します。

1. 就業規則を規定する法令

インドネシアにおける就業規則を理解する上で押さえるべき法令は以下の2つです。

・法律2003年13号(法律2020年11号により修正 ”労働法”)
・労働大臣規則2014年28号(”労働大臣規則”)

2. 就業規則作成の義務

インドネシアでは従業員(社員とは会社より賃金または報酬を得ているものを指します(労働法1条3号)。)が10名以上在籍をしている場合、雇用主は就業規則を作成、政府当局の承認を得なければならないとされています(労働法108条1項)。ただし、労働協約を作成している会社は就業規則を作成する必要はありません(労働法108条2項)。なお、就業規則は原則会社ごとに1つですが、支店、業務ユニット(unit kejra)、事務所(perwakilan
perusahaan)ごとに作成することも可能です(労働大臣規則3条3項)。

3. 就業規則に含むべき情報

就業規則は法令に反しない範囲で、最低限以下の情報を含む必要があります(労働法111 条1、2項、労働大臣規則2条2項)。

・雇用主の権利と義務
・従業員の権利と義務
・労働条件(*1)(Syarat kerja)
・行動規範(Tata tertibu perusahaan)
・就業規則の有効期間

*1 労働法111条1項解説より、労働条件とは法令に規定のない雇用主と従業員の権利義務(111条1項解説)。また、労働大臣規則2014年28号より法令よりも良い規定および法令の施行規則詳細(労働大臣規則2014年28号2条4項)をも含むとされています。

なお、就業規則を作成する際のポイントとして、①労働法制上定められている内容と同じ内容を書き込む場合でも、具体的な内容を就業規則にも書き込む(法令の記載内容をミラーで反映させる)のか、②「最新の現行の法令の内容に従う」という形で、就業規則には具体的な内容は盛り込まず、最新の現行法令の内容に従う趣旨のみを規定するのかという点があります。

就業規則に具体的な内容を書き込んでしまうと、仮に労働法制の改正で雇用者に有利な改正がなされても、それが就業規則に当然反映されるわけではなく、労働法制の改正を就業規則に反映させるには、別途就業規則の変更が必要となります。しかし、労働者側は当然、改正前の労働者に有利な内容を維持したいと考えるため、交渉は難航することが多いです。

インドネシアの労働法制は、比較法的に労働者保護に偏っていると言われており、オムニバス法によりこれがやや緩和されたものの、諸外国と比べると、なお労働者保護色の強いものとなっています。このため、今後も労働者保護を緩和する(雇用者に有利な)労働法制の改正が予想されるところです。

このため、これから現法を設立し、新たに就業規則を作成される皆さまにおいては、上記②のように「最新の現行の法令の内容に従う」という形にしておき、雇用者側に有利な労働法制の改正がなされた場合に就業規則の変更を行わずとも、自動的に改正内容が就業規則にも反映されるようにしておくことをお勧めします。

4. 就業規則の作成および政府当局からの承認

就業規則は雇用主側が一方的に作成をするべきではなく、労働組合のある会社は労働組合役員、労働組合のない会社は民主的に選ばれた従業員代表の意見にも考慮すべきと定められています(労働法110条)。

作成された就業規則のドラフトは労働組合、従業員代表に共有し意見募集を募ることが必要です。労働組合、従業員代表はドラフトに提案や考慮すべき事項がある場合は7営業日以内に申し入れをする必要があります(労働大臣規則6条2項)。7営業日以内に申し入れがない場合は、従労働組合、従業員代表からの賛同が得られたものとして就業規則の政府当局への提出へと進みます。就業規則の提出に当たり、労働組合、従業員代表に対してドラフトへの意見募集をしたことを証明するために意見募集依頼書もあわせて提出を行います(就業規則の提出先は企業の所在地や拠点の有無などによっても違います(労働大臣規則7条1項)。)(労働大臣規則6条4項)。

就業規則のドラフトを受領した政府当局は、就業規則の内容確認を6営業日以内に実施しなければならないとされています(労働大臣規則8条5項)。政府当局は、もしも修正を要求する場合には、雇用主に対して書面で通達するものとされています(労働大臣規則9条1項)。なお、通達より14営業日以内に修正を完了した就業規則を再提出しない場合は手続きを最初から行う必要があることに留意する必要があります(労働大臣規則9条2項)。就業規則が承認された場合には政府機関より5営業日以内に決定書が発出されます(労働大臣規則10条)。

5. 就業規則の従業員への周知

就業規則の従業員への周知の義務があります。周知の方法としては、全ての社員への配布、従業員が手に取れる場所に保管すること、あるいは直接の説明があります(労働法114条)。

6. 就業規則の修正

就業規則の有効期間内での変更は従業員代表との協議をもとに実施され、政府当局の承認を経て初めて有効化されます(労働法113条)。なお、労働大臣規則12条では、就業規則の有効期間中に修正を行い、その修正が現行の就業規則よりも条件が劣る場合、労働組合または従業員代表からの同意が必要と規定されていますが、政府当局の運用としては全ての変更に関して労働組合または従業員代表の合意および政府当局の承認が必要となっています。

7. 就業規則の更新

就業規則の有効期間は最長2年と設定されています(労働法111条3項)。有効期限を迎えるたびに再度就業規則を政府当局に提出し承認を得る必要があります。具体的には、就業規則の有効期限が切れる30営業日前までに政府当局に対して新しいバージョンを提出することが義務付けられています。更新時も就業規則作成時同様に労働組合または従業員代表への意見募集実施する必要があります(労働大臣規則13条)。


Authors

弁護士 井上 諒一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2014年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2015~2020年3月森・濱田松本法律事務所。2017年同事務所北京オフィスに駐在。2018~2020年3月同事務所ジャカルタデスクに常駐。2020年4月に三浦法律事務所参画。2021年1月から現職。英語のほか、インドネシア語と中国語が堪能。主要著書に『オムニバス法対応 インドネシアビジネス法務ガイド』(中央経済社、2022年)など

樽田 貫人(M&Pアジア株式会社 COO)
PROFILE:2カ国(カンボジア、インドネシア)で、複数の法人立上げ経験を有する。直近の業務としては、インドネシア法人の立上げ責任者として3年間ジャカルタに駐在。東証一部、インドネシア証券取引所上場の企業とのJV設立・運営にも携わる。インドネシア語が堪能。

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