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インドネシア最新法令UPDATE Vol.15:外資の最低払込資本金・最低投資額に関する変更

インドネシアでは、オムニバス法やリスクベースの許認可の導入により外資の投資法制が大きく変更されています。同じく外資の投資法制に影響を与える新規則として、2021年4月1日、投資調整庁規則2021年4号(以下「本新規則」といいます)が公布されました。本新規則は、2021年6月2日より施行されています。本新規則により、外資企業の最低払込資本金・最低投資額に変更が生じています。最低投資額については、特に外資ディストリビューターに大きなインパクトがあります。

なお、本新規則の施行により、本連載Vol.1で紹介した投資調整庁規則2020年1号は廃止されています。

1. 最低払込資本金

従前は、外資企業の最低払込資本金は25億ルピアとされていました(投資調整庁規則2020年1号6条2項b)。しかし、投資調整庁規則2021年4号による改正によって、2021年6月2日から外資企業の最低払込資本金が100億ルピアに増額されています(投資調整庁規則2021年4号12条7項)。経過措置や、既に進出済みの外資企業は引き続き払込資本金25億ルピアで事業を継続できる旨の規定(いわゆるグランドファーザー条項)も、明文上は設けられていません。払込資本金を経過措置もなく4倍に引き上げるという、外資企業にとっては厳しい改正であり、インドネシアに進出している日本企業の間では困惑が生じています。

2. 最低投資額

(1)原則(本新規則による変更なし)

外資企業の最低投資額については、過去よりさまざまな変遷があったところです(本連載Vol.1をご覧ください)。

本新規則制定前から、インドネシアの外資企業は原則として5桁のKBLI番号ごとに、100億ルピア(約7,700万円)の最低投資額(土地・建物を除く)を満たさなければならないとされていました。つまり、原則としてはKBLI番号を1つ追加するごとに追加で100億ルピアの投資が必要になるということです。この点は本新規則でも変わっていません (投資調整庁規則2021年4号12条2項)。

(2)外資ディストリビューターの最低投資額(本新規則で改正)

しかし、本新規則制定前は、外資ディストリビューターの最低投資額はKBLI上2桁ごとに100億ルピアとされていました(投資調整庁規則2020年1号6条3項1項a)。これに対して本新規則では、外資ディストリビューターの最低投資額は、上4桁のKBLI番号ごとに100億ルピアと変更されています(投資調整庁規則2021年4号12条3項)。

ディストリビューター業のKBLI番号は、販売する製品ごとに分かれているということもあり、上2桁は共通するが、上3桁目以降が異なるKBLI番号を複数取得しているディストリビューターについては、大幅な投資額の追加を強いられることになります。頭を悩ませている日系ディストリビューターも多い状況です。

上記改正によるインパクトにつき、例えばKBLI番号として45111、45121、46111、46121を取得している外資ディストリビューターを例にとって検討します。KBLI上2桁ごとに最低投資額を判断する従前の規制では、45111と45121につき100億ルピア(上二桁が「45」で共通するため)、46111と46121につき100億ルピア(上二桁が「46」で共通するため)の合計200億ルピアの投資額を満たせば足りました。しかし、本新規則により上4桁のKBLI番号ごとに判断されることになったため、45111、45121、46111、46121それぞれにつき100億ルピア(上4桁は全て異なるため)、合計400億ルピアの投資額が必要となります。上記で例として取り上げた外資ディストリビューターについては、従前は最低投資額200億ルピアで足りていたのに対し、本新規則により、400億ルピアの最低投資額を満たすことが必要になったというインパクトがあることになります。

なお、当局が上記最低投資額違反につき指摘をしてくるとすれば、どのような契機があり得るでしょうか。事業者は投資調整庁に対して、投資活動報告書(LKPM:Laporan Kegiatan Penanaman Modal)を提出しなければならないとされています(投資調整庁規則2021年4号94条1項)。LKPMには投資額について記載する箇所があるため、投資調整庁はLKPMの記載から各事業者が最低投資額に関する規制を満たしているかを確認することができます。このため、LKPMが当局が最低投資額違反を指摘してくる契機となり得ると考えられます。


Author

弁護士 井上 諒一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2014年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2015~2020年3月森・濱田松本法律事務所。2017年同事務所北京オフィスに駐在。2018~2020年3月同事務所ジャカルタデスクに常駐。2020年4月に三浦法律事務所参画。2021年1月から現職。英語のほか、インドネシア語と中国語が堪能。主要著書に『インドネシアビジネス法実務体系』(中央経済社、2020年)など

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