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ベトナム最新法令UPDATE Vol.4:クロスボーダー広告に関する法令改正

本稿のテーマは、ベトナムにおけるクロスボーダー広告等に適用される規制の変更です。

ベトナムにおいて、広告業に関して基本的な枠組みを定めているのは広告法(Law No.16/2012/QH13)です。広告法23条4項において、クロスボーダー広告等に関する規制の詳細は政府が定めるものと規定されています。

これを受けて、2013年に広告法の施行規則として政令2013年181号(「旧政令」)が制定されましたが、2021年7月に旧政令を改正する政令2021年70号(「新政令」)が制定されました。本稿では、①クロスボーダー広告に関する前提事項を整理したうえで、②新政令による改正内容について紹介します。

1. クロスボーダー広告に関する前提事項

クロスボーダー広告の提供とは、外国のウェブサイト広告事業者がベトナム国外に設置されたサーバーからベトナム国内のユーザーに向けてウェブサイトを用いて広告を行うことを指すとされています(新政令13条1項)。ここでのポイントは、①ウェブサイトのサーバーが国外に所在するという点と、②広告がベトナム国内のエンドユーザーに向けられているという2点にあります。クロスボーダー広告の定義については、書きぶりが若干変わっているものの、内容に変更はありません。

もっとも、外国の広告事業者は、ベトナム国内の広告主から直接広告掲載の依頼を受けるという場面だけでなく、ベトナム側の広告会社と提携して、ベトナム側の広告会社の依頼により広告を掲載する場合もあります。

以上を図にすると、以下のようになります。

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広告法施行規則は、①外国のウェブサイト広告事業者(フェイスブック等が想定されていると考えられます)と、②ベトナム側の広告会社のそれぞれに適用され規制が定められています。

ベトナムで広告関係事業を行う皆さまにおいては、①日本で運営しているウェブサイトにおいてベトナムのエンドユーザー向け広告を掲載している場合(外国のウェブサイト広告事業者に該当)と、②ベトナム現地法人において、広告代理店として外国のウェブサイトに広告を掲載する業務を行っている場合(ベトナム側の広告会社に該当)のいずれにおいても規制の適用を受けうる点にご留意ください。

2. 改正点

今回の改正の概観としては、①ベトナム側の広告会社による当局への通知の頻度が半年に1回から年に1回に緩和された反面、②内容の適法性や違法な広告の摘発手順が明確化され、クロスボーダー広告の内容に対する監督を強化していく姿勢が見られます。

(1)当局への事前通知・定期報告

当局への事前通知・定期報告に関しては、①外国のウェブサイト広告事業者がサービス開始前に事前通知を行い、②その後ベトナム側の広告会社が定期的な報告を行うという建付けとなっています。新政令では、これら事前通知・定期報告の宛先や頻度が変更されています。

ア 事前通知の宛先変更(外国ウェブサイト広告事業者)

旧政令において、外国のウェブサイト広告事業者はクロスボーダー広告サービスを提供する15日前までに文化スポーツ観光省(the Ministry of Culture, Sports and Tourism)に対し事前通知を行う必要がありました(旧政令14条2項)。

新政令によって、通知先が文化スポーツ観光省から情報通信省(the Ministry of Information and Communications)に変更になりました(新政令13条4項a)。

イ 定期的な報告の宛先・頻度の変更(ベトナム側広告会社)

旧政令において、ベトナム側の広告会社は文化スポーツ観光省に対して、半年ごとにベトナムにおけるクロスボーダー広告事業の実施状況を報告する必要がありました(旧政令15条2項c)。

新政令によって、ベトナム側の広告会社は情報通信省に対して、1年に1度、ベトナムにおけるクロスボーダー広告事業の実施状況を報告する必要があるという形に変更されました(新政令15条1項)。

このように、新政令において①報告先が文化スポーツ観光省から情報通信省へと変更され、②報告の頻度が半年に1回から1年に1回に変更されています。

(2)広告内容に関する規制

旧政令では、広告内容に関してどの法律に従わなければならないかが明確ではありませんでした。

新政令では、外国のウェブサイト広告事業者は広告法13条の内容を順守し、サイバーセキュリティ法8条1項及び知的財産法28条に違反する広告を掲載してはならない旨が明記されました(新政令13条4項b)。サイバーセキュリティ法8条1項では、国家安全保障および社会秩序・安全に違反する行為、サイバー攻撃等、サイバー空間上禁止されている事項が記載されています。知的財産法28条では、著作権侵害にあたるものについて記載されています。

(3)違法な広告が掲示された際の対応

旧政令においては、違法な広告が掲示された際の対応について明確な記載がありませんでした。

新政令では、違法広告の摘発の流れが明確化されました。その内容は以下の通りとされています(新政令14条2項)。

1. 関連省庁は広告をモニタリングし、違法と思われる広告を情報通信省に報告
2. 情報通信省は報告から5営業日以内に当該報告を精査
3. 情報通信省は、報告のあった広告を違法と認めた場合には、海外事業者に当該広告を削除するよう通知をする
4. 通信情報省は、3の通知と同時に、海外事業者に削除を求めた広告に関する情報を情報通信省のポータルに掲載
5. 海外事業者は3の通知から24時間以内に当該広告を削除しなければならない。
6. 5の対応が海外事業者によって為されない場合、情報通信省は広告を閲覧できないよう措置を取らなければならない

ベトナムで広告関係の事業を行う皆さまにおかれましては、今回の改正点にご留意ください。


Author

弁護士 井上 諒一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2014年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2015~2020年3月森・濱田松本法律事務所。2017年同事務所北京オフィスに駐在。2018~2020年3月同事務所ジャカルタデスクに常駐。2020年4月に三浦法律事務所参画。2021年1月から現職。英語のほか、インドネシア語と中国語が堪能。主要著書に『インドネシアビジネス法実務体系』(中央経済社、2020年)など

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