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『寝盗られ宗介』 新風プロジェクト革新#1

2022.10.14 夜公演 篠原演芸場にて

龍美麗という役者が好きなんです。
自分の劇団にいる時にも時折ものすごい挑戦をするのですが、きっとそんな枠には嵌らない、嵌りきらない何かを内包している、そんな気にさせられる魅力を勝手ながら感じています。

今回、つかこうへい作品のあの長台詞の主演を、通常の公演、しかも浅草木馬館に乗っている月に挑戦するなんて、耳にした時には「え!?」って心の底から思いました。
ま、どういうことかよく考える前に条件反射的に「やります!」って言いそうだなとか勝手に思いつつ。

それで、きっちりこなす。というか、演出も含めて、完璧なものを突きつけてくる。また、今回もすごいものを見せられたな、と。目尻ににじむ涙は何度目だろう。
人の心を揺さぶるもの、それがどうやったら形作れるか、直感的に組み立てているようで、じつは全ての要素を一度解体してから、緻密に組み上げて、積み上げてお芝居を作っておられるのでは、と思うことがしばしば。

大衆演劇を知り尽くしているからこその、今回の演出。楽屋と舞台が切れ間なく交錯しては集約していく。本当に素晴らしかったです。
するすると楽屋内で着替えて、鬘も被って、舞台の本番では役者としてきっちり魅せるのに、楽屋に戻ると途端になんとも頼りない、けれどどこか憎めない座長になってみせる。コミカルな日常と舞台上の物語のヒリヒリとした緊張感が、表裏クルクルと眼前に広がります。
ラストシーンは本家の殿堂、紀伊國屋ホールを彷彿とさせて、本人の涙にもつられて、こちらまで感極まってしまいました。

挑戦を止めないでほしい、触れるものすべてを役者としての糧にできる逸材だと思うので、どうかいろいろなジャンルのエンタメに、経験に触れて吸収して昇華していってほしい。
その先にある彼にしか体現できない世界を何度でも何度でも見せてほしい、と勝手に応援しているのです。

今回相手役を演じてくださった高野愛さんの存在感もすごかった〜。市川華丸さんの物おじしないお芝居もとても愛嬌があって愛おしかった。三咲暁人さんはいつもながら飄々と演じておられて安定感がありました。三咲愛羅さんのかわいさよ! 澤村蓮座長のコミカルさときっちりとした姿のギャップにも萌えました。いや、関わった方々みんな良かったですね。

願わくば、再演してもらって、それぞれの成長とその結果の衝突を、間近で目撃したいものです。

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