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仁義なき催事場日記①

この話は、2020年10月16日から10月25日まで千葉県千葉市緑区おゆみ野にあるイオンタウンで行われた催事場での出来事。やたら脚色してるけど、基本ノンフィクションなドキュメンタリーであることをここに記しておく。


エピソード・ゼロ 始まり

ある日社長からこう告げられた……
「10月になったら催事でティラミスを売ってくれないか?」

◇◇◇

僕がようやく雇ってもらった店舗は、想像通りコロナ禍の影響を受け散々な状態で、なんとかこの状況を打開するために今年の春から店舗で出していたデザートのティラミスを瓶詰にしてネット販売を始めているところだった。

そのティラミスを持ち、取引先へ営業活動していた社長に「うちの催事に出店しませんか?」と、『イオンタウン株式会社』から声が掛かったというのだ。 
とは言え、会社としても、自分個人としても催事出店は初めての試み……。
若干の不安を抱えつつも僕は、「やりましょう」と即答していた。

イオンタウン担当者と対面して打ち合わせをする……
「一日10万売れることもあるんですよ」
とか
「平日の2倍ですね……週末は」
など、かわいらしい担当者からパワーワードがいくつも発せられ、僕と社長はビビりまくった。
ティラミスは1個税込み550円である。10万となると1日180個くらい売ることになる。しかも週末は倍……360個である。
「10時から19時まで9時間営業が決まっているから、180個を9時間で割ると1時間あたり20個になる。1個だけ買う人なんていないだろうから最低2個、いや、ひとり4個は買うんじゃないか?平均3個にしても1時間に6~7人くれば計算上は20個売れる。およそ10分にひとり買いに来ればいいのだ。楽勝じゃないか?」
と僕は算段した。この仮説が後々ヒドイことになるのだが、それはまた後の話。

この時点で10日間の販売個数(仮)が決定した。16日の金曜から25日の日曜まで10日間、平日6回、土日が4回、土日を2倍と換算すると14日分(平日6+土日4×2=8の計算)である。14×180=2520個ティラミスの瓶詰が必要なことが分かった。そりゃあ大袈裟だけど、少なくとも2000個は必要だろう。これが10月7日の話である。

エピソード1 ティラミス地獄

この週はティラミス販売にあたりリーフレットやポスターの作成に追われた。とにかく目立つ看板と、販売した時にネット注文に繋がる宣伝が必要だと思ったのだ。ギフトに一緒に挟まってる説明文みたいなやつ……あるよね。

ティラミスパンフ(イオンタウン用)_imgs (2)-0002

ティラミスパンフ(イオンタウン用)_imgs (2)-0001

イオンタウン用B1ポスター_imgs (1)-0001

こんな感じだ。
「幸せを呼ぶティラミス」というキャッチコピーを考え、そこにボディーコピーを添えてポスターを作り、リーフレットも作成した。赤いリーフレットは両面印刷でふたつ折りにしてレジ袋に投入(あるいはギフトボックスに添える)する。突貫作業にしてはまぁまぁの出来だろう。

次はティラミス作成だ。
週明けの12日から取り掛かる。ティラミス作成1回目……ミキサー容量の問題もあって、1回にできる数が60~70個ほど。瓶と蓋を洗浄機で洗い1個ずつ拭く→中に入れるビスケット生地をカットする(1個を6等分にする×70個)→ビスケット1個ずつにコーヒーシロップを塗る→70個分のティラミス生地を作る→瓶にビスケット3個詰めてクリームを半分、さらにビスケット3個詰めてクリームで埋める→隙間なく詰めるため瓶を細かく叩く→ココアをふる→蓋をしっかり締める→瓶1個ずつに店名シールを貼る……ここまでの作業を70個作るのに3人で3時間掛かってしまった。普段の営業もやりながらの作業なので微妙だが仕方ない。効率が悪いものの徐々に慣れてくる。
アルバイトなど揃う日が限られているため今日集中して作るしかない。最初はかわいいバイトの子と楽しく作っていたが、2時間もすると無言になり、その後5時間かけてなんとか作業を終了した。ようやく350個作成……ヘロヘロである。


できたティラミスを冷凍保管する場所問題もある。系列店の冷凍庫を無理やり空けてもらい、作っては冷凍庫に突っ込み作っては冷凍庫に突っ込み……調理場では作れず臨時で客席を潰して作るしかない。高さの合わない作業台(客席テーブル)に苦しみ、この数日で背中と腰がガクガクである。とは言え作るしかないのだ……僕と店長(歳下だが)がイオンタウンへ行く15日の夕方まで掛かって、息も絶え絶えティラミスを1050個作成した。
そして冷凍されたティラミスと催事に必要な備品を積んだ僕らの車は、およそ70km離れた千葉県の”おゆみ野”へ出発した。

エピソード2 ノボリ棒の秘密

さて、僕は看板だけでは心許ないと思っていて、ノボリと横断幕も作成していた。長机を2台借りたので、その足元を隠すためにも横断幕が必要だと思ったのだ。安く仕上げるためにノボリと同じサイズ(180×60)で縦型(ノボリ)と横型(横断幕)を作ってもらった。

まずこれが失敗だった。

現地に着いた僕らは荷物を降ろし、早速設営に取り掛かる……そこで気づいてしまったのだ。大した失敗じゃないけれど横断幕が長机の横幅しかなくてサイドが隠れない(笑) 仕方なくギフト用に持ってきた包装紙をセロテープで貼ってサイドを隠した。そう、本来なら横断幕はサイド部分も隠れる長さで発注しなければならなかったのだ。

次はノボリだ。これはちゃんとしてるので問題ないはずだった……ところが、歳下の店長曰く「横の棒がありません──」と言う。「んな馬鹿な」だ。ノボリを立てるポールとその台(水をいれて使うやつ)はあるのに、確かにポールから横へ伸びる棒が付いてないのだ。「説明書は?」「付いてないです」「まじか……」僕らは狼狽した。
もう21時を回っているし、辺り真っ暗な森の中にあるショッピングモールゆえどうしようもない。「ちゃんと注文したし業者のミスなのでは?」と思ったけれど、2本注文して2本とも無いのだ。

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とにかく疲れていて頭が回転しない僕らは「明日針金を買ってこよう」ということにして悩むことをやめた。僕は近くのホテルに泊まるからいいけど、店長は電車で埼玉県まで帰るのだ。まだ21時過ぎだけど、最終電車まであとわずかだった。

僕はJRの蘇我駅前にホテルを予約していたので、そこまで店長を車に乗せ突っ走り、22時過ぎに到着……「また明日」と手を振り15日の夜が終わった。

いや、まだ終わっていない。安いパーキングを探さなきゃならないし、夕食(ていうか昼も食べていない)もまだだった。駅からまあまあ近くて12時間500円のパーキングを発見して車をぶち込むと、とぼとぼ歩いて駅に戻り、最初に目に留まった「日高屋」へ吸い込まれていった。まだチェックインすらしていないが、初日はこんなところだった。

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2時就寝。明日は8時起きである。

ちなみに落ち着いてノボリ棒のことを検索したら、ポールの中に棒が入っているとの情報を得られた。一安心して眠りにつくことが出来ましたとさ。(続く
次回「喉から血ぃでるぅー」です。なんだそりゃ。





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