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仁義なき催事場日記②


エピソード③ 喉から血ぃでるぅー

16日、初日である。
今回は『マックスバリュ』というイオングループの食料品スーパーがリニューアルすることに伴ってイオンタウン株式会社からお声掛け頂いたのが始まりだった。大変気を遣ってもらったのか、僕らはスーパーの目の前に陣取らせていただけた。

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気持ち的には学園祭の模擬店だ。
まだ9時を少し回ったばかりなのにスーパーは多くの人でごった返していて、こっちもすぐ臨戦態勢になる。
正面のパン屋さん、その奥の総菜屋さんが大声で、
「らっせーらっせーらっせーらっせーえええぇぇぇぇぇぇぇぇ――」
と景気よい。
負けてはいられない。
倍の声を張り上げて
「いらっしゃいませ――」
と被せていく。
ん?……んんんん?
パン屋さんと総菜屋さんの声の雰囲気がちょっと違うぞ……
そう、彼らは”拡声器”を使っているのだ。
パン屋にいたっては「ヘッドマイク」(アイドルがダンスしながら歌うときに使ってるやつ)を使い、スピーカーを腰につけてそこらじゅうを練り歩いている。
「まじか……」
周りを見渡せば、「WAONカード」勧誘のお姉さんも、ウォーターサーバーの販売をしているお兄さんも、みんな拡声器やマイクを使用している。肉声を張り上げているのは魚屋と自分だけだ。
ただ、準備のない僕には今更どうすることもできない。
「やるしかない……」
と、中学生時代バスケット部だった頃を思い出し声を張り上げる。

大声で叫び続けた数時間……スーパーは大勢の人でごった返しているというのに、こっちには見向きもしない。みんなパン屋に夢中だ。1時間に1人、2人買ってくれる人がいるけれど、ほとんどの人がチラ見しかしないし、基本素通りだし、ホント心が折れそうになる。
初日ということもあり、夕方から店長が車で2時間かけて応援に来てくれた。フードコートで休憩を取り、なんとか気力を取り戻す。とは言え周囲に押されっぱなしの状況を打開することができずにその日は終わってしまった。惨敗マンだ。

17日、二日目。
初日の惨劇を打開すべく声を張り上げる。
ただ、思っていたより喉のダメージが酷くて、気がつけばカッスカスの声になっている。

昼過ぎにこの有様。
隣のブースを見ると、昨日はいなかった新たな店が出店をしていた。ポップコーン屋だ。

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どおりで甘い匂いがするわけだ……「匂い!!!!!!!」
そう、催事で大事なポイントは匂い!そして実演販売!ポップコーン屋さんは自前の機器を使ってポップコーンを目の前で作っていて、そこから発する甘い匂いが辺り一面を包み込んでいるのだ。
子どもたちが吸い寄せられてゆく……
「ママ、ママ、ポップコーンだよ――!」
恐るべしポップコーンの威力。見れば一袋400円とか500円で商品単価ウチの店のティラミスと大差ない。(こじんまりした瓶のティライスより袋のほうが何倍もがデカいため逆にお得感がある)
どう考えてみてもポップコーンのほうが原価が安いし完敗……僕は完敗マンである。

エピソード④ テンガロンハットの男(ポップ吉村)

そぼ降る雨で少々肌寒い土曜日……。この日も芳しくない売り上げにがっくりしていた僕のところに誰か近づいてきた。
「あれぇ、見ない顔だねぇ……新入りさん?ティラミスとか初めて見るなぁ……」
テンガロンハットを頭にちょこんと乗せ、なぜか陽に焼けた赤ら顔をテカテカさせた謎の人物が声を掛けてきた。ポップコーン屋の主人だ。吉村さんという。人がよさそうでガッチリとした体型……50代後半くらいだろうか。
僕は、
「初めまして!会社も僕個人も、こういう催事っていうの初めてなんですよ。何が何だか全然わからなくて……いろいろ教えてもらっていいですか?」
と尋ねてみた。すると、
「オッケーオッケー!最初はみんなわからないよねーなんでも聞いてよ!」
と陽気に応えてくれた。
背後から30代と思われる可愛らしい女性がひょっこり顔を覗かせて
「なんでも聞いてね」
と言ってくれる。聞けば夫婦でこのポップコーン屋をやっているという。
なんでこんな可愛らしい女性が奥さんなんだ……という疑問はさて置き、僕は溜まりにたまった謎をぶつけてみた。
「今日、ポップコーンめちゃめちゃ売れてましたよねー。なんであんなにお客さんが集まるんですか?」
ポップ吉村は嬉しそうに答えてくれる……
「匂い!まず匂いでしょ!ほら見て!ここに扇風機つけてるの。これで遠くまでポップコーンの匂いが飛んでいくんだよねー」
単純明快である。確かにウチの店先まで甘い香りが漂っていた。
「あとね、音。ほら、僕らこんな格好でしょ……だからテキサスっぽい音楽流してるのよ」
ポップ吉村も奥さんも、カウボーイのような姿をしていて完ぺきなキャラ設定だ。そしてテキサス???は意味不明だが陽気な音楽が流れていた。よく見ると各コーナーに照明が付いていて、その演出も効果が高いだろう。さすがのプロである。

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ポップ吉村はこんなことも教えてくれた。
「お客さんにね、声掛けちゃダメなのよ。逃げちゃう。だってさぁ、お客さんってこのイオンに来たわけであってポップコーン買いに来たんじゃないのよ。偶然あっただけ。だからまず商品に興味持ってもらって、いろいろ想像してもらって、そこで初めてお互いの関係性ができるのよ。それまで我慢。目を合わせないようにして声も掛けないが鉄則。買う人はちゃんと向こうから声掛けてくれるから大丈夫。でもねぇ……これが難しいのよ。我慢できなくてつい声掛けちゃって逃しちゃう。」
目からウロコが落ちまくって足りないくらいだ。
これって洋服屋で声掛けられたくない心理と同じだなぁ。確かにゆっくり吟味したいのに、声掛けられるとその場に居づらくなっちゃうもんな……。

さらにポップ吉村は続ける……
「試食はやってる?これは味を見てもらう意味もあるけど、客を滞留させるところに意味があるのよ。ウチもやってるけど、とにかく店先に客を並ばせるのが大事なの。いろいろ種類を増やして悩ませる。悩む時間が長ければ長いほど店先にお客さんが溜まっていく……すると他のお客さんが気になって寄ってくるんだよね。あと子どもが大事。子どもが食べたいと言えば親は仕方なく試食をお願いしてくるし、そうなると人集りが出来て、また人が集まってくる。たまに子どもが大泣きしても買わない親御さんいるけど、大泣きすれば人の目を引くし、まぁ大抵根負けするよね……だから子どもはホント大事。」

なるほど過ぎるポップ吉村の解説だ。

その他にTwitterからこんなご意見も頂いた。

イオンタウンという特性や客層も考えて売る商品を考えたほうがいいんだなぁ。
ティラミスはお酒が入ってるから子どもに難しかったりする。原価も高い。今回は1種類勝負という、冷静に考えると負け戦なんだけど、何かしら打開策を考えないとなぁ……。
ちなみに試食を18日の日曜日から始めたんだけど、試食して「あっ……後で買いにきます!」て言って買いに来てくれるお客さん率”ゼロ”という知見を得た。(試食初めて数日後に気づくの巻)


まぁ「行けたら行きます」と同じ手口だ(笑)
最初わからずに閉店後も待ってたんだけど、そういうもんだよね。
これ、試食して会釈だけしていなくなる人もいて、でもそういう人って意外と後で来たりするんですよね。つまりは後ろめたさが言い訳に繋がるというね。


いろいろな人に助けられながら、日曜の夜は更けていきました。(続く


次回は「さよならポップ吉村」から。乞うご期待。

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