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Stones alive complex (Strawberry Quartz)

「そちらの御様子はいかがですか?という質問は、こちらの御様子を案じてくださいという遠回しな清姫語なのだと察するが、察したとはいえ察したとおりにこちらが動くとは限らないぞ。ゆえに、まっすぐその言葉どおりに解釈してやろう」

亜火ノ聖命は片手に受話器を持ったまま操縦桿を倒し、戦闘機を鋭くロールさせると、平将門の身体を垂直尾翼に上手に引っかけた。

「こちらの御様子はな。
私は平将門を追いかけて彼の夢の第二層にいる。
ここは、その物がその物であると認識する概念が集合している次元だ」

「・・・」

「その沈黙は、それはどういう事なのですか?という意味だと解釈しよう。
つまりだ。例えば。
猫という概念が頭の中に入っていなければ、それが猫だと解釈はできない。
猫というものをあらかじめ知っていなければ、猫を認識できないというわけだ。もちろん猫以前に生命という概念は知ってるから不思議な生き物であると解釈はできる。しかし、生命という概念すら知らなかったら、ぐにゃぐにゃ寝そべる不気味な物体としか認識できない。物体という概念すら知らなければ、壁も天井も床も猫も一体となったスペクトルにしか見えないだろう」

地母神が伸ばしてくる手のひらの親指と人差し指の間を、ギリギリにすり抜ける。

「・・・あのう・・・聖命様・・・大事そうなお話の途中ですけれど・・・」

「ここは、そんな基本概念がプログラムされてる領域なのだ」

「・・・座敷わらし様が・・・わたくしの相手をしてくださらないのです」

「それは非常に良い質問だぞ、清姫よ!
ここが夢の第二層だということは、この下には夢の第三層があるのだ。
そこの第三層には、それなりのロジックがあるここ第二層を生み出してる領域、ロジックではない想念の次元がある!」

「・・・座敷わらし様のお気を引くには・・・どうアプローチすれば・・・よいのでしょう?」

「そのとおりだ、清姫!
世界は大規模で政治的な闘争から、それを奥の院から操る魔術的勢力どおしの闘争に移っている!
あの勢力が現実界の明るい場所へ引っ張り出されるのは、火星文明崩壊の時以来のことだ。
ゆえに今回は、確実に平将門を起爆剤としてセッティングし、第三層の魔術的次元に投下しなければならないのだ。
だが、そうされまいと第三層がその前に将門を奪還して融合しようとしてきている!」

地母神の手が大ぶりなスイングで、聖命の戦闘機を掴もうともがく。
慌ただしく操縦桿を左右に振る聖命の耳奥へ、清姫の声がしょぼしょぼ垂れ落ちる。

「・・・座敷わらし様のお心が・・・どうにも清には、掴みきれないのです・・・」

「なかなかに鋭い指摘だぞ、清姫!
集合無意識と呼ばれてる統合想念は、強烈な思念の爆発を受けなければ、決して流れを変化させない。
要するに存りて在るもの、『存在』という想念レベルへ、絶滅か進化かの分岐を作らねばならぬのだ!
ここまで理解してくれたか、清姫よ!?」

(プチッ。ツーツーツー・・・)

「さすがは清姫だ!
理解してくれたようだな・・・」

(おわり)

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