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とある青年の話

人間1年生

あるところに、真面目な青年が住んでいました。

青年は日がな労働を強いられ、労働のために生きる毎日。
でも青年には夢があった。
誰にも言えない夢。ただ、その夢を叶えるためには資金が必要。
だから、働いた。好きでもない、むしろ嫌いになりかけている仕事をして。
労働をしている最中は、夢のことを考えるのだけが唯一の楽しみだった。
ふとした考えが頭をよぎった。
「一生、毎日同じことの繰り返しでいいのか?」
手を働かせながら、暇な脳内はそればかりで埋め尽くされていく。
時報が鳴るたびに焦りと緊張が増していくばかり。
とうとう労働が楽しいと思える日は来なかった。

ある日、青年の心にピンと張っていた糸が音を立てるようにして切れてしまいました。

ぷつり。

その日を境に青年は別人のようになってしまいました。
働きたくても、体が動かない。
食事が喉を通らず、眠ることもままならない。
外が、人が、見えているもの全部が恐怖の対象になる。
ひたすら、耐えるしかない日々の始まり。

そんな中、唯一の楽しみは酒だった。
これまで酒を飲むことはなかったのに、1度知ってしまったら後戻りできない。
酒を飲んでいる時だけは、幸せな気分に浸れる。頭はふわふわして何をするでもなく、気分がハイになる感覚。

貴方はこの感覚 味わったことありますか?

酒はいい気分にさせてくれます。
まともな思考なんてできなくなり、瞬間的にとてつもない幸福感に浸れる。

ですが、一日中酒を飲むわけにもいきません。
青年の真面目な性格は、糸が切れてしまってからも生きていました。
「こんな自分に生きている価値はあるのか?」
脳内をえんぴつでぐしゃぐしゃと黒く塗りつぶされ、発狂寸前。
いっそ発狂して自我を失ってしまえばどれほど楽だろうとも思う。
今度は、警告音が脳内を支配します。

酒を飲まなければ、

酒に手を伸ばし、1口、2口とみるみる中身は減っていく。
先程までの悩みが霞んでいく。
何をそんなに思い詰める必要があるのか、と開き直る。

そこで、彼は酒に飲まれた頭で思いつきました。

「終わらせてしまばいいじゃないか」
こういう時の行動力というのは恐ろしいもので、思いついたらすぐ行動してしまえるんですよ。
市販されていた睡眠薬を残っていた酒で流し込む。
睡眠薬を酒で飲むのはいけないことだと理性ではわかっていても、そんなものはお構いなし。だって、まともな思考などできないから。
青年の本能は「……たい」と叫んでいたから。
そのまま彼は、布団に潜り込む。
これでようやく解放される。正体のわからない不安から逃げられる。
そんな気持ちで眠りについた。

翌朝、青年はいつものように目を覚ましました。
彼は失敗してしまったのです。意識もはっきりしている。
大声を出し、頭を掻きむしり、全身に虫が這うような感覚がして暴れた。

部屋の真ん中。1人で。

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