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〆鯖のちょっとだけやらかした話

先日、世間では俗にホワイトデーと呼ばれるイベントがあった。
この日に、人生を彩る様々な甘酸っぱい物語も生まれたことだろう。
そんなホワイトデーにかこつけて、私もひとつ、ちょっとだけやらかしたしょっぱい物語をぶち込んでいこうと思う。

話は数年前、新卒1年目のバレンタインデーにまで遡る。
私は神奈川県にある某社の某部署で、請負社員として働いていた。
それなりに大きな会社だったので、その部署の従業員も男性・女性ともにそこそこいた。

その部署では、毎年バレンタインになると、女性従業員が男性従業員にチョコレートを配るという慣習があったようなのだが、新卒1年目の請負社員である私は、そんなこと全く知らなかった。
だから、私はその日も特に何も用意せず出社したのだが、周りの女性陣はみんな、何かしらの準備をしていたようだった。
だからと言って、それで誰かにとやかく言われるという訳でもなく、他の女性従業員に余ったチョコをちゃっかり貰ったりして、1日を過ごしていたような気がする。

それからバレンタインについて思い出すこともなく、あっという間にひと月が流れ、ホワイトデー当日を迎えた。

その日も普段通り就業していたのだが、にわかに部長が動き出したかと思うと、女性従業員ひとりひとりの席を回って、お菓子の包みのようなものを配り始めたのである。

「そうか、今日はホワイトデーだから、チョコをくれた人にお返しをしてるんだな」
ぼんやりそんな風に思っていると、驚いたことに、部長が何も渡していない私の席まで来て、その包みを差し出してきたのである。

「(私何も渡してないのに)貰っていいんですか!?」
「いいよ」

部長はそんなことを言いながら、笑顔で私にお菓子を手渡すと、颯爽と去っていった。
わあ、部長ってすごく優しいんだな。
バレンタインに何もしなかった私にまでお菓子をくれるなんて。
と、感動していたら、しばらくして、離れたところからさっきまで隣にいた部長の声が微かに聞こえてきた。


「あれ、ひとつ足りない…」


おいいいいいいいいいいいいいいいい!

絶対私に渡したことが原因で計算狂ってしまってるやん。
きっと部長は、チョコを女性全員から貰ったと思い、受け取った数を数えてからお礼を用意していたのだろう。
私のようなトリックスターが存在していることは、予想だにしていなかったはずだ。

え、どうしよう。
多分私のせいです、と自己申告するタイミングが掴めず、そのうちに部長の方では「足りなかった分は明日持ってこよ!」という方向で考えがまとまったようで、その年のホワイトデーは終わった。

この場を借りて謝罪させていただきます。
部長とホワイトデー当日にお返しが貰えなかった誰か。
本当にすみませんでした。

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