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2024/7/4 太陽が燃えている

猛暑だ。マンションのエントランスから向こうがあまりに明るい。景色が白っぽく発光している。太陽光の鋭さに貫かれて死んでしまうかも。

そーっとエントランスのドアを押し開いて、サンダルを履いた右足だけを出してみる。どろおっと熱く重たい空気が足の甲にまとわりついて、スライムみたいだ。玩具屋に売っているやつじゃなくて、勇者の旅路に現れて、倒されると色々アイテムを落としたりするほうのスライム。あれは生き物だから、きっと本物には体温も鼓動もあると常々思っている。

うひー、と小さく声を出していったん足を引っ込める。ドアも閉める。でも外出しないわけには行かないのだ。やだなぁ、と握ったハンドルに寄りかかるようにしてうだうだしていると、あのー、と背後から声をかけられる。振り返ると同じマンションの(エントランスの中にいるんだから当たり前だが)、10年以上前からよく顔を合わせているが名前は知らない人だ。いつも涼やかでおしゃれだが、遭遇する時間がバラバラすぎて何をしている人なのかさっぱりわからない。向こうも私のことをそう思っているだろうけど。

すいません、と言ってハンドルを押して、もう一度エントランスを開いた。今度は大きく、人の体が通れるくらい。暑いもんねえ、やーよねえ、うふふ、と言って彼女は銀色の日傘(アウトドアブランドの、絶対に日差しを通さないという決意が現れたもの)をぱっと開いて、気をつけてね!と残してためらいなく日差しに飛び込んでいった。

負けてはいけない。外へドアを開いた分、左腕はもう日差しに焼かれている。帽子をぎゅっと被り直して外へ出た。

息も絶え絶えになって帰ると、エアコンのおかげでひんやりしているフローリングの床にしばし倒れた。7月の頭からこんなんで、あと丸々3ヶ月くらいこんななの?と泣きたい気持ちになる。缶詰を開けて欲しい猫2が、腹の底から不満の声を出しながら私の身体中をすんすんかぎ回った。

負けてツナ缶を開ける。この老猫は最近ツナに御執心だ。塩も油も使っていない割高なやつを遠くのスーパーまで買いに行っている。生い先短いから、という理由で甘やかしている。16歳、よく食べる。

仕事をしているような、目の前に霞がかかっているような時間を過ごしていると、長男がずぶ濡れで帰ってくる。外、やばい、暑い、とAIみたいな喋り方をする。Tシャツを変えて、アイスでも食べんしゃい、とランドセルは引き受けてやった。

長男がアイスを食べ終わって、ソファと綺麗に一体になって久しくなった頃、今度は次男が泳いできたみたいななりで帰ってきた。なんと放課後の校庭でドッジボールを楽しんできたと言う。狂気。こちらは全身着替えさせて顔も洗わせた。

次男もアイスを食べながらゲームを始めた頃、怖いもの見たさで向こう3ヶ月の気温予想を検索してみた。軒並み30度台。全部忘れることにして、夕食にはとうもろこしをぶった切ってあげて塩と青のりを振って食べた。夏の味、と思ってから、夏の味とは、と思った。

本やなにかしらのコンテンツに変わって私の脳が潤います。