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2024/7/18 生活と気持ちの詰まったコンクリの箱

保護者会だ。でかける。

陽がさんさんと降り注いでいるのがわかっていたので、ちゃんと日傘を持って出る。我が家は学区境に建っていて、小学校までは少し遠い。おまけに坂が名物の街なので、道のりに起伏が激しく通常の倍、体力を消耗する。44歳、気をつけなければ命を取られるやもしれぬ。

てってこ坂を下りて、歩道橋を渡り、ガードレールのついた細い歩道をぐーるりと歩く。この「ぐーるり」は学校の外周を回り込むときの表現。

実は保護者会の開始時間を知らないまま来たのだった。兄弟のどちらもその旨が書かれたプリントを持って帰ってこなかった。もしかしたら彼らのランドセルの底でじゃばらになっているかもしれないけど、私も探さなかった。お母さんだって、そういうことは苦手なんですよ。

とはいえ長男はもう6年生だ。年に数回開かれる保護者会、参加した数は既に二桁にのぼる。大体こんくらいの時間だっていうのはわかってんだよ、とベテラン母風を吹かせつつ登校した。下校時間から10分ほどを過ぎたところで、正門前に差し掛かると、開け放たれた重たい門から次々と子どもたちがまろび出るようにして駆けていく。なぜ、子どもの移動は常にダッシュなんだろうか。

下駄箱で(令和の世でも「下駄」箱呼びのままだ)持参した折り畳みのぺらぺらしたルームシューズに履き替える。下駄箱の置かれた玄関は昇降口の他にピロティにつながっている。忘れ物をしたのか、ピロティから土足のまま玄関を突っ切ろうとする子どもに、先生が「こらー、土足だめだよー」と声をかける。「一瞬!一瞬!3秒ルール!」。高学年ともなるとなかなか達者だ。

土足でピロティから玄関に上がるのは厳禁だが、実は上履きで同じルートを通って反対側の校舎に行くのは良いのだ。でも、なんとなく、後ろめたい気持ちで上履きのままピロティに下りた。一瞬、一瞬、3秒ルール、と唱える。

反対側の校舎には職員玄関と職員室。その前には歴代学校を訪れた著名人のサイン色紙が並ぶ。ここだけ町中華の風情。大谷グローブは先生の頼めば触らせてもらえるとな。

まだまだ子どもが校舎に残っていて、階段の上から水が流れるみたいにどんどん子どもが湧いてくる。いろんな大きさの、いろんな髪型の、いろんな服を着た子ども。

小学校ほどランダムな場所はない。なんのふるいにもかけられていない、ただそこに住んでいるというだけで集められた子ども。私が通っていた小学校はマンモス校で「たまたまそこに住んでた」子どもが1000人もいた。

1000人も子どもがいれば、実にいろんな奴がいた。足が速い子、遅い子、宗教2世、泳ぎが上手い子、ものすごく意地悪な子、兄弟が多い子、多分ネグレクトの子。貧富の差もあった。

今もそう変わらない。でも私は大人になったので、いろんな子の後ろにいろんな親がいるということも知っている。理由のない理不尽はないのだということも。

忘れ物ボックスから、長男の名が入った鉛筆を拾い上げ、顔を知っている数人の子とあいさつをする。少しゆっくり廊下を歩いて、清書された詩と、「街角」の習字、粘土作品を眺めた。めだかと亀、金魚の健康を確かめる。

そこにいる子どもたちの生活と気持ちが詰まったコンクリの箱だ。私は今それを、当事者なんかじゃないという顔で、外側から見つめてる。俯瞰はできていない。感情と立場のなせる技。

大人が全然いないから薄々感じてはいたが、保護者会の開始時間は20分、間違えていた。

本やなにかしらのコンテンツに変わって私の脳が潤います。