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2024/9/19 野性の証明
きっきっきっ、と鳴く虫がどこかにいる。夜中にぽかっと目が覚めて(でも時計は見ない。時間というものはいつだってショッキングなので)、もう一度目を閉じた時に聞こえた。
きっきっきっ。小さい蝶番が軋むみたいな音だ。
次に目が覚めたのは朝、次男に起こされた時(これは珍しい。彼はいつも私と同じかもっと遅くまで寝ている)。もう虫は鳴いていなくて、家族がおのおの朝ごはんを食らっていた。
蝶番みたいに鳴く虫は何の虫だろうか。
家族がみんな出払った頃、友人からLINE。
「ストレスにまかせてペヤング2倍のやつ食べたら胃がもたれてる。くやしい」
悲しい文面だ。われわれはもう不惑を超えて体が気持ちについていかなくなってしまった。「お年頃だからね」と返信する。老化していく機体を乗りこなさなければならない。
朝から空がどんよりしていたが、いよいよ雨が降り出した。ベランダの洗濯物を回収して浴室に突っ込む。ほんのり電気代のことを思いながら、浴室乾燥のボタンを押した。
体調が思わしくなく、じりじりと這いつくばるように仕事をする。低空飛行。合間に、リビングのテーブルにあった本を読んだ。長野まゆみ『鳩の栖』。長男が国語の読解問題でその一部を読んで「前後が気になる」と珍しく言ったもので買ってやったのだ(夫が)。
私はそういう入り方をした作品なかったなあ、と何となく羨ましいような気持ちで表題作を読んだ。懐かしい、美しい文章。
現実逃避を終えて、やれやれと作業に戻ろうとすると、スマホが震えた。朝の友人の返信だ。「それな」。
午後、本棚の上のベッド(兼爪研ぎ)の中で寝ていたはずの猫3が、床にじっと座って何かを見つめている。同じ高さまで目線を落とすと、小さな砂色の、雫のような形をした虫がいた。あ、これだ。こいつが多分、蝶番の虫、と思った瞬間、猫3がはぐ、とそいつを口に含んだ。
あ、それ、と言うと、猫3は「何が?」という顔をして、それをまた吐き出す。それから2度口に含んでは吐き出してもて遊び、3度目に口に含んだらもう吐き出さなかった。どんなに可愛くあざとく甘えてきても、こいつは野性を秘めた動物なのだ。
頼むから虫食ったばっかの口で私を舐めたりしないでね、と思いながら可愛がっていると、次男が帰ってくる。ランドセルを部屋に放り込んで、そのまま公園に遊びに行く!と飛び出していった。アニメに出てくるみたいな野生の小学生男児の振る舞いであった。
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