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ハドソン・リバースクール      @デトロイト美術館

デトロイト美術館(DIA)は、実はアメリカン・アート作品の所有数が国内第3位であり、アメリカ絵画の歴史を追うようにノースウィングの一角に展示がされている。そしてその最初の部屋を飾るのが今回のテーマであるハドソンリバースクール(スクール=~派の意味)の画家達の絵画である。並んだ壮大な風景画は “アメリカ” を感じさせる。今回はDIAでの鑑賞をより充実させんがため、ハドソンリバースクールのキーパーソンとキーワードを追ってみた。するとそこから、その時代独特の思想や文化そして画法が濃く作品に反映されていることが解りより興味が湧いてきた。

ハドソンリバースクール (1825-1875)

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アメリカに於ける最初の芸術的会派で19世紀中頃にニューヨーク州ハドソン渓谷地域と近郊の風景・自然を写実的に精密に描いた画家達を総称して1870年代に名付けられた。(実際に代表がいる組織として成立していた訳では無い)。感受性や主観に重きをおいたヨーロッパのロマン主義の絵画を学んだアメリカの画家たちがニューヨーク近郊ハドソン渓谷とキャッツキル山地、他周辺の自然を主題として作品を描いた。それは、当時の多くの人が持っていた意識である “アメリカ西部=未開の荒野” という恐れを “自然を敬い興味を抱く” ように変化させるといった役割を果たしていた。アメリカの未開の若く壮大かつ広大な自然の地には国としての大きな可能性があるのだと見る人に感じさせる、そんな作品を描くことによって西部開拓を推奨していたという。

 トーマス・コール(1801-1848) 創始者的人物
1819年に英国ランカシャー州よりオハイオへ家族で移住。ペンシルバニア・アカデミーオブアーツで学んだ後、ニューヨークに移った家族に合流した。そして1825年、ハドソン渓谷への旅で描いた5枚の絵から見出され支援者を得て名を上げていった。アメリカの原生自然の風景画を最初に確立した画家であり、「人間社会は荒野の中に生まれ、文明を築きやがて消滅して・・・」という永遠に続くサイクルの中にあると信じた。自身の作品を通してコールは、アメリカの人々に自国の雄大で広大な自然と風景に感謝し称えることを教えたといえよう。DIAでは主題が異なる数千のスケッチのうちなんと2,500枚を所蔵している。 *1825年のナショナル・アカデミー・オブ・デザインを結成者でもある。
第二世代の1855年~1875年にハドソンリバースクールは全盛期を迎えた。(*コール生前がハドソンリバースクール第一世代)フレドリック・チャーチアルバート・ビアスタット(この2人については後述)が特に有名で展覧会には長蛇の列が出来たという。第二世代においては、さらなる西部への移住、国立公園の保護、公園の整備などの推進の役割を担っていたとされる。

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ハドソンリバースクールの特徴とキーワード

【Romanticism(ロマン主義)】(18世紀後半~19世紀中頃)
それまでの古典主義において、美とは均整やプロポーションといった外部要因にあったが。それに対し、感情・個性・自由を尊重し、自然との一体感、神秘的な体験や無限なものへの憧れを表現したのがロマン主義である。ハドソンリバースクールの第一世代はこの思想に大きな影響を受けている。

【Sublime(崇高)】
ハドソンリバースクールの風景画の評価は、sublimeであることが最も重要とされていた。英国の思想家エドマンド・バーグの「崇高と美の観念の起源」(1756)やジョン・ラスキンのことばを借りれば、「崇高とは美的範疇であり巨大なもの、勇壮なものに対したとき対象に対して抱く感情、心的イメージをいう美学上の概念である」(ウィキペディア)ということで、壮大な自然を描いた崇高なものと感じさせるような風景画が “美” として多く描かれた。

【複合的な絵の構成】
写実的に緻密に描かれた風景は、実はいくつかの光景と画家のイメージを合成したものであったりする。ハドソンリバー渓谷と周辺地域を描き尽すと、パノラマに成り得る画題やインスピレーションを与える光景を求める先は、更に未開の西部アメリカそして南米諸国へと広がった。

【Panoramic】 
はっきりした色使いと壮大なパノラマで描かれたイメージは荒野への同化を強調している。例えば、舞台の背景のような雰囲気を醸し出す、かすみがかった淡い色のグラデーション空の表現は、非常な臨場感を生む効果がある。アメリカの自然に対する畏敬の念を起こさせる演出が絵の力となって宿っている。

【ヨーロッパ巡礼】
芸術歴史の浅いアメリカでトーマス・コール始めハドソンリバースクールの画家達は、何度もイギリス、フランス、イタリア、ドイツへ滞在し、当時隆盛であったロマン主義を始めとする絵画の理論や画法を学んだ。

【Luminism】(1850-1870年代)
ハドソンリバースクールの第二世代が当てはまる。アメリカの風景画スタイルの一つ。近くを明確に描き、遠くを不明瞭で沈んだ彩度で描く「空気遠近法」を用いて光の効果を強調すること。また、対象を精密に描きながらも筆の跡が出ないことが特徴。静けさに重きをおくと共に穏やかで反射する水面、柔らかでかすみがかった空を強調することが多い。

【 ジョン・ラスキン(1819-1900)】 19世紀英国を代表する美術評論家
芸術家の使命は “Truth to nature”(自然をありのままに再現する)であり、神の創造物である自然に完全を見出すことだとした。その実現者としてイギリスの画家ジョセフ・ターナーを評価した。ラスキンの支持者であるフレドリック・チャーチの “Niagara” も同じく大きな評価を得た。

【ジョセフ・ターナー(1775-1851)】 英国風景画の巨匠
英国絵画の地位を飛躍的に高めた風景画の巨匠であり、ロマン主義を代表する画家。風景をどのように描くかを光や風、大気を描くような風景画。線がはっきりしないが力強い。多くのハドソンリバースクールの画家達ばかりでなく、後の印象派の形成に多大な影響を与えた。

DIAでの鑑賞ポイント
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フレドリック・チャーチ(1826-1900) 
トマース・コールの唯一の弟子である。ハドソンリバースクールで最も成功した画家。

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 DIAの北ウィング最初の展示室、入り口からドドーンと見えるのが、チャーチの“Cotpaxi” エクアドルの火山を描いた作品だ。噴火するコトパクシー火山と朝日は南北戦争を意味しているという。この作品の価値は70ミリオン㌦だそうで、マチスの価値は150ミリオン㌦、ゴッホ自画像の60ミリオン㌦であることから、その評価の高さがうかがえる。東壁に展示されている “Syria by the Sea” は目を奪われる深淵にかかる霧と煙、燃えるような太陽がドラマチックな作品で、ローマ、イスラム、中世ヨーロッパのモチーフで構成されている。想像上の中世風の遺跡に輝く太陽をもって “文明は消滅しても、自然は絶えない” ことを表現しているという。

アルバート・ビアスタット(1830-1920) Luminism の画家の中でも大人気であった。

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彼がアメリカ政府の土地調査官に同行し、広範囲の西部遠征の旅をした際のスケッチから描いた “The Wolf River, Kansas”、やマーティン・ヒード(1819-1904)の “Seascape: Sunset” と“Humming Birds and Orchids”、そして、サンフォード・ギフォード (1823-1880)の “Kaaterskill Falls” などDIA展示作品にてその空気遠近法(前述キーワード参照)や光と影のコントラストを観察してはいかがだろう。

ハドソンリバースクールの評価

アメリカ絵画というものを確立しようと、多くの画家たちがヨーロッパのロマン主義に学びながら 「崇高なアメリカの風景=壮大で広大な大自然」を描き、全盛を誇ったハドソンリバースクールの時代。それも、モダニズムの台頭に連れて時代遅れのように扱われ、酷評の的になった。そして、1940年、1950年代は抽象表現主義が芸術家の主流と変わった。しかし、20世紀になり再発見という形でその評価がまた上がっている。

まとめ

デトロイト市の破産によりその存続と所蔵作品の行き先が注目されたデトロイト美術館。GM、フォード、トヨタなどの企業や財界、一般からの多くの支援により救われ、今後はデトロイト市の管轄から離れての運営がなされることになる。ハドソンリバースクールを冠にした特別展示が企画され、所蔵庫に眠っている作品群を是非見たいものだ。DIA補助グループの一員として提案してみよう。 

参考書籍:
Beal, Graham, W.J : American Beauty, Scala Publishers Ltd, 2002
Yaeger, Bert, D: The Hudson River School, SMITHMARK Publishers,1996      




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