見出し画像

南仏の夏季講座

学校は街の中心部コメディー広場とモンペリエ駅の中間のエリア、アパルトマンから歩いて5分の近距離にあった。  

住居用建物?の2階と3階部分を使用している、私設のランゲージスクール。

地◯の歩き方-留学編でのレビューが良く、日本語の話せるスタッフが居て、学費が良心的なのも有難かった。

日本から夏季講座を申し込んだ際、中級と初級どちらに申し込むか迷ったが、ついて行けなくなるのも嫌なので、当初は中級よりの初級に入れて貰った。 
が、思ったよりも基礎クラス過ぎて、何よりも会話慣れを求めていた私は失敗したと思った(パスカル達ともっと話せる様になりたいのに!)

クラスメイトは10代〜大学生ばかり。
生徒の内訳はコロンビア等の南米グループと、イギリスとアメリカ、アジア人は私以外に韓国の女の子が居た。
まだニキビのあるよな18才位のイギリスの男の子が、好きな映画について先生に質問され、ハリウッド映画「パールハーバー」を観たばかりとのことで、日本軍を攻撃するシーンが良かった!と、私の前で臆面もなく話したりするもんだから初日からイラついた。(先生が気まずそうにこちらをチラチラ見ていたのを覚えている…。)

とはいえ、私は午前のクラスしか申し込まなかったので、学校はさほどストレスではなかった。

何より問題となったのはアパルトマンの鍵だった。

当初から鍵は何故か一つしかなくて、家のオーナーであるパスカルが所持していた。
私が登校する時間パスカルはまだ寝ていて、昼前辺りにワークスペースが整っていないアパートから出て、オリビエのところで日中お仕事と言う流れ。(仕事かどうかは怪しいが…)
故に、アパートに入りたければ彼の所まで鍵を取りに行くしか無かった。

モンペリエはフランス一、日照時間が長い太陽の街と言われてる。
焼け付く太陽の下、学校からオリビエのアパートまでの迷路のような路地を30分近く暑さで朦朧として歩いていたのを思い出す。(そんな日課は1週間と持たなかった…)
パスカルとはそこで初めておはよう、となる。
学校どうだった?うん、まぁ、面白かった、みたいな単純な会話をして鍵を受け取る。

完全に暑さとフランス語の洪水にやられていた私は、ひんやりとした石造りのアパートに戻ると、少し日が傾くまでサンダルを脱いで昼寝した。

初めの1週間は何をするのも手探りで、近くのコインランドリーに洗濯に行った時も近所のオジサンが使い方を一生懸命教えてくれたが、南仏訛りの巻き舌が激しくて何を言ってるのかまるで分からなかった…泣)

画像1

授業2日め、休み時間に廊下に出ると、
「ねぇ、日本人?」
と、小柄な女性に話しかけられた。  
他のクラスの日本人生徒だった。

互いに午後のクラスが無いことを確認すると、数分の間にお昼を一緒に食べる約束をした。
横を通った先生に(hey! 日本語でばかり話してちゃダメよ!)と注意されてしまった。

X子さんは30歳になったかならないか、寡黙でマイペースな人だった。
後に日本人のグループで海に行ったり、お昼を食べたりもしたが、彼女が学生寮でなくホームステイ組ということぐらいしか他の誰もが知らずにいた。なぜフランス語を学びに来たかということも…
皆で海水浴に行った際も、日傘をさしカッチリとしたOL風の服装のまま、頑なに海に近づこうとせず、他の国の生徒とも話さず、不思議な人だった...

私が大家さん(パスカル)の所まで鍵をピックアップしに行く話をすると興味を持ったらしく、「一緒に行ってもいい?」と聞かれた。
中級クラスらしいので、私の拙い会話を助けてくれるかも?と、連日のフランス語攻めで少々くたびれていた私は喜んで同行してもらった。

オリビエのアパートのブザーを押し、
「Coucou!c'est mitsuyo.パスカルはいる?
鍵を取りに来たの。友達が一緒なんだけど」
「Entre !問題無いよ。上がっておいで!」
と、オリビエ。

オリビエはただ鍵を取りに来ただけでも、ほら座んなよ、と毎回ソファに座らせてくれ、ミネラルウォーターをついでくれる、いかにも南仏的オープンさを持った気さくな兄ちゃんだった。
私以外の日本人のお客さんを初めて前にして、パスカルもオリビエもちょっとかしこまって、まるで商談するみたいに膝を突き合わせてソファーの向かい側に座った。

X子さんといえば、名前を名乗ったあと緊張したのか、黙りこくってしまった…。

パスカルが保護者みたいに学校はどんな感じなんだい? mitsuyoは学校でどうだい?と彼女に質問したが、小さな声でOuiとNon、Je ne sais pas(分かりません)しか話さずに下を向いてしまった。
段々空気が重くなってきたので、私が滅茶苦茶なフランス語でもって、「私たち、違うクラスで今日知り合ったばかりなの!」と、受けとった鍵を持って早々に失礼した。

アパートから出ると彼女が急に日本語で話し出した。
「ねぇ、ちょっとびっくりしちゃった…上半身ハダカなんだもん。mitsuyoさん、よく平気ね…」

パスカルはTシャツに半ズボンだったけど、オリビエは自分の家では大抵半ズボン型の水着姿で上半身ハダカだった。(フランスで冷房設備のある家は少ない) 
そりゃパリや日本では不自然だと思うが、海が近く、太陽が降り注ぐ南仏の空気の中では、さほど違和感は感じなかった(でも初めて会う海外の異性の前では失礼かもね…)

二人でサンドイッチを買い、互いに飢えていた日本語で街を歩きながらわーわーと怒涛の如く会話をしていたが、ホームステイ先の夕食の時間が近付くとX子さんは帰って行った。

画像2

少し日が傾き始めた頃(と言っても9時近くまで明るいのだが)パスカルが毎日ちょこちょこと水やトイレットペーパーなんかを抱えて帰って来る。 

しばらくは私をピックアップして夕食に連れて行ってくれていた。

ピザレストランで私が小さいサイズにするわ、(Je prends la petite=I take a small size)
と注文した時、パスカルが僕も小さいのにするよ、と私の顔を覗き込みながら意味ありげに笑った。
「あ、そう??」
下ネタだった。クリストフと一緒にウフフと笑っている。
ガエルが怒って、
「あーもう!本当に止めてよね!いい?mitsuyo 、これはジョークよ!聞いちゃダメ!もう!男ってホントにやーね!」とプリプリ怒っていたが、そのジョークの意味さえ掴めず、眠る直前に辞書を開き直してやっと気付くと言う蛍光灯ぶりだった。
※prendreは英語のtakeと同じ意味合いである。
何かを取る、注文する、乗り物に乗る、跨がる…という意味だ。la petiteはsmall oneだが、チビちゃん、または俗語でお嬢ちゃん、オンナの子のことも指す。
即ち…である。お嬢ちゃんに乗る…もう今では怒る気もしないが…。ナイーブ過ぎた自分を長いこと哀れんだ(ナイーブだって勿論良い意味では無い)

翌日、学校はエクスカーション=遠足の日だった。ポンデュガール、水道橋では河に入るわよ!と言われ、日焼け止め持参で水着を服の下に着ていそいそと学校に行った。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?