恐れる育児-オマセさんというボス
妊娠が分かったとき、男の子がいいなと漠然と思った。
理由の一つには前回書いた通り女の子らしいものが苦手ということがあるが
そもそも女の子自体に苦手意識がある。
保育園の記憶で鮮明に残っているものがある。
多分年長の時のものだと思う。
同じ学年に双子の姉妹がいた。
双子はとてもオマセさんで、ハキハキとよく喋る子たちだった。
特に妹(仮にAちゃんとする)はかなり気が強く、事実上園児の中でボスだった。
そんなAちゃんが恋していたのは、プレイボーイのRくんだった。
Aちゃんはかなり強引にRくんにモーションをかけていた。
他の女の子がRくんと遊ぼうものなら、御構いなしに引っ叩いていた。
そんなRくんは私と一番仲が良かった。
私は叩かれることはなかったが、Aちゃんにかなり睨まれていた。
そんなとき、お誕生会があった。
その月に誕生日がある子たちが前に出て、先生から一つ質問をされるのだ。
それは好きな食べ物だったり、将来の夢だったりしたが、たまに好きな異性を聞かれることがあった。
今考えたらそんなもん聞くなよという感じだが、かわいらしい園児の初恋話は先生たちや親にはウケるのかもしれない。
好きな男の子の名前を聞かれませんように…
私はそう願ったが、想いは届かず、先生は私に「好きな男の子は誰かな?」という最も下世話な質問をした。
Rくんをチラッと見た。
小鼻をいっぱいに膨らませたワクワクした顔で、落ち着きなく体育座りをしていた。
私とRくんの仲はもはや親公認といった状態だったから、彼も当然自分の名前が呼ばれると思っていただろう。
同時にそのRくんのすぐ後ろに陣取って座っているAちゃんが、私を射殺さん勢いで睨んでいるのが目に入った。
ものすごい形相だった。
私は完全に萎縮した。
「…Mくんです」
私は嘘をついた。
「Mくんのどこが好きなの?」
先生は更に質問を続けた。
「…面白いところ…」
その瞬間、Mくんのありがとー!という言葉がホールに響いた。
泣きそうに俯いてしまったRくんと
満足げなAちゃんの姿が視線に入ったが、私は見ないようにした。
私はボスに負けたのだ。
保育園ことはあまり覚えていないが、あの誕生会の光景はまざまざと思い出せる。
お腹の子の性別が女の子だとわかったとき、よく言われたのは
「女の子は小さくても女」
保育園や幼稚園で、男の子が虫だの車だのにワーワー言ってる時でも、もう女の子はマセていて恋愛の話をしたりマウンティングがあったりする。
そんな話を先輩ママさんからたくさん聞いた。
たしかに、Aちゃんは齢五つか六つにして紛れもなく「女」だった。
女の子に生まれた以上、3歳かそこらでもう女の世界は始まるのだ。
それはとてつもない恐怖である。
女の世界というのはとにかく難しい。
そして同時に、女の世界には必ずボスとなる子がいる。
もし自分の娘がボスだったら?
そんな恐ろしいことがあるだろうか。
自分の娘が、コミュニティの中で女王様然として振舞っているなどと想像できない。
ボスとして君臨する姿は、果たして親として微笑ましく見れるものなのだろうか?
いや、見れないだろう。
中には誇らしく思う親もいるだろうが、少なくとも私には無理だ。
でも蜂のコロニーには必ず女王蜂がいるように、コミュニティに女がいれば程度の差こそあれだれかがボスになるのである。
一つのコミュニティにひとりのボスとは限らない。
何故ならランキングは流動的で、マウンティング合戦が常に行われているからだ。
アメリカの青春映画だったら、大抵チアリーダーでアメフト部のエースの彼女がボスである。ゾンビ映画なら真っ先に死ぬ。
しかし現実(というか日本)はそれほどわかりやすくはないしゾンビもいない。
以前も書いたが、私にとって赤子はまだ女ではない。
「赤子」という生き物なのだ。
その赤子が「女の戦い」に投げ出されるだけでも心配しているのに
むしろ水を得た魚のように並み居る強豪を押しのけてボスに君臨する。
なんだそれめちゃくちゃビビる。
レベル1の冒険者だと思ってたらラスボスでした、という驚き(そして恐怖)である。
木の棒に皮の服だと思ってたのに、生まれながらにしてエクスカリバーにリボンを身につけていたなんて。
リボン。
(注※FFの世界ではすごい防具)
やはり女は恐ろしい。
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